花帰葬-Confessione...Riconoscenza

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abbraccio

※おまけ話。
結局、最後の最後は黒玄なんだねというオチな展開です。
銀朱が報われなくてもいいやって方のみどうぞ。






――玄冬……玄冬。
 
声が聞こえる。
優しくて懐かしい、かつて何よりも馴染んだ声が。
顔を上げると微笑んだ黒鷹が俺に手を差し出していた。
 
――迎えに来たよ。……おいで。
 
当たり前のように差し出された手に、やはり当たり前のように手を重ねると、そのまま、身体を引き寄せられた。
柔らかく伝わるぬくもりに目を閉じて、黒鷹に身体を預けた。
髪を撫でてくれる手にどうしてだか、無性に泣きたくなる。
何も言わなくていいよ、と小さく耳に落ちた響きに頷いた。
子どもの頃のように。
 
――行こうか。……もう手放さない。これからはずっと一緒だよ。
――ああ。連れて行ってくれ。どこまででも。
 
額に落ちた口付けに、一瞬心を過ぎった名前。
それには心の中だけで感謝と謝罪を告げた。
 
――ずっと……傍にいてくれてありがとう。
この数十年は間違いなく幸せだった。……だけど。
――特別、なんだ。黒鷹はやっぱり。……すまない。
 
きっと、それでもあいつは許してくれるだろう。
「そんなことぐらいわかっていた」と苦笑を浮かべて。
その顔が容易に想像できてしまうのが可笑しい。
……わかってて傍にいてくれた。
 
――妬けるね。
 
抱きしめる力が強くなる。
黒鷹の背に腕を回して、かるくあやすように叩いた。
 
――妬くなよ。……これからはずっと一緒なんだから。
――ああ。
 
顎を捉えられて、唇を重ねられて。
久々に交わした口付けは心地良かった。
もう身体なんてお互いにないのにな。
 
***
 
名を呼ぶ。
愛しい子の名を。
君の目元が優しくなることに内心ほっとして、手を差し出した。
拒むことはしないだろうともう確信があったから。
 
――迎えに来たよ。……おいで。
 
自然に重ねられた手を引いて、そのまま身体を抱きしめる。
……もう誰にも渡さない。
傍にいられるのだから。
すまないね、若輩君。この子は私の元に返して貰うよ。
ほんの僅か、玄冬が震えたのは数十年の時を思い出してのことだろう。
君が自分を責めたり、申し訳なく思ったりすることはないのだよ。
微笑って過ごして、生きていて欲しいというのは、かつての私の願いでもあったのだから。
 
――行こうか。……もう手放さない。これからはずっと一緒だよ。
――ああ。連れて行ってくれ。どこまででも。
 
そして、今は。
ただ二人であることだけを望む。
数十年の時を否定するつもりはないし、幸せに過ごせただろう。
だけど、再び一緒になれたからには渡さない。
……奪えるものなら奪ってみたまえよ。
額に口付けを落として強く抱きしめた。
 
――妬けるね。
 
何か考え事をしているらしい。
少しだけ遠くに感じてしまった気がして、つい拗ねた口調になってしまったら、玄冬の笑う気配がして背を軽く叩かれた。
 
――妬くなよ。……これからはずっと一緒なんだから。
――ああ。
 
そして、誓約でもあり、儀式とも成り得る口付けを交わした。
ずっと二人であるための。
終わりであり、始まりであった。
 
***
 
医者を呼ばなければならない。
このままにしておくわけにいかないのはわかっている。
だけど、もう少しだけ。
二人きりでありたかった。
まだ僅かに体温の残る頬に手を伸ばし、そのまま、白髪の混じった紫紺の髪をそっと梳く。
何か、髪とは違う柔らかい感触を指先に感じて、掻き分けると、その場所から現れたのは一片の黒い羽根。
 
「迎えに……来たのか」
 
やっぱり、という気はした。
あいつが放っておくわけがないと。
きっともうお互いを離す気などないだろう。どちらも。
……それでいい。
悔しくないと言えば嘘になるが、黒の鳥には黒の鳥にしか出来ないことが、俺には俺にしか出来ないことがあった。
それだけの話だ。
この数十年、共に過ごした年月だけは確かなものとして残っている。
十分だった。
 
「ゆっくり休め。……玄冬」
 
きっと、お前と同じところには行けないだろう。
黒の鳥に追い返されるのがオチだろうし、また、俺としても邪魔をするつもりもない。
……だから、せめて。
命ある限りは想っていよう。決して忘れない。
大丈夫だ、笑っていられる。この想いがある限り。
名残を惜しむように額に一度だけ口付けを落として、医者を呼ぶために部屋をでた。

2005/03/25 up
玄冬ご臨終にお迎え鷹。
どこまでも基本が黒玄でごめんなさい、な話。(笑)
銀朱、報われなくてごめん……! 
でも隊長だし!(それを言い訳にするのかw)
素直に銀玄いちゃいちゃが読みたい方は、他のサイト行ってますよね。
きっと。というわけでお許しを。
書いた直後、AlicesoftのPERSIOM二次創作でかつてやったネタと、微妙に被るのに気付きました。
先立ったパートナーが最期に迎えにくるオチ、好きみたいです……。

  • 2008/01/01 (火) 00:11
  • 番外編

タグ:[番外編]

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