作品
お願いどうか
ほんの僅かな時でいい。
「銀……朱…………っ」
お前の中にある影を消せるなら。
「……少し、加減……しろっ」
わかっている。
本当にそれが消える時はお前がお前でなくなることくらい。
「……すまん、な」
「っ…………!」
詫びは激しさを抑えられない行為についてか、無いものねだりをした心中についてかは、自分でもわからない。
ただ、全てを忘れるように突き上げを繰り返した。
――銀朱さまは私を見てはいらっしゃらないわ。
何度、女にそう言われただろうか。
――傍にいるのに、傍にいない。寂しい気持ちはお分かりにならないでしょう?
当時はわからなかった言葉が今ならわかる。
傍にいるのに、傍にいない。
「や……くあっ! くろ……っ!」
「……っ!」
玄冬が行為に無我夢中になればなるほど思い知らされる。
背につけられる爪痕はかつて誰がその身に受けていたか。
縋る腕を受け止めていたのは誰だったか。
意識を無くす前に呟く名前は黒の鳥。
おそらく玄冬本人でさえ、そのことに気付いていない。
「……玄冬」
手を伸ばして、汗を含んだ髪を掻きあげる。
あの男もこうして触れていたのだろう。
意識のないままに、僅かに和らいだ表情は胸に痛い。
向けられてるのが自分でないのを知っているから。
「頼む……どうか」
お願いだから。
ほんの一瞬でもいい。
どうかお前の全てを俺に。
2005/05/09 up
元は拍手レス&short storyブログでやっていたお題。
Kfir(閉鎖) が配布されていた「ヘタレ攻めで5題」、No2より。
ごめん、隊長。
- 2008/02/01 (金) 00:05
- 番外編