作品
(本当は、)笑顔だけじゃたりなくて
――これは、小さい頃にあいつがよく読んでくれた本だ。
この話が好きで、何度もねだって読んで貰った。
ある時は優しく微笑み。
――ああ、懐かしいな。
これはいつか市場で買った器で、目を離した隙によくこれで酒を飲んでいた。
ある時は苦笑を滲ませて。
――黒鷹は絵を描くのが好きだったんだがな、どうも上手いのか下手なのか、俺には判断できなくてな……あんたはこれをみてどう思う?
また、ある時は子どものような表情で本当に可笑しそうに笑う。
時折、玄冬の育った家に共に行くと、あいつは黒の鳥のことを思い出しながら、そうやっていろんな物を見て笑う。
その笑いには翳りとかはない。
屈託のない笑顔ができるようになったのは嬉しいと思うが、笑う理由が黒の鳥のことでばかりだと思うとどうにも複雑だ。
傍にいるのに、笑っているときの玄冬はどこか遠くに感じてしまうことがある。
「銀朱?」
「……ん、ああ、なんでもない」
贅沢、なんだろうか。
お前が笑っていてくれるだけでは物足りないと思うのは、贅沢なんだろうか?
2005/05/09 up
元は拍手レス&short storyブログでやっていたお題。
Kfir(閉鎖) が配布されていた「ヘタレ攻めで5題」、No3より。
銀朱視点。
どうにも黒玄前提だと切なさ漂うものが多くなりますね。
- 2008/02/01 (金) 00:08
- 番外編