作品
好きすぎて無力さを知る
「……っ……黒た……っ! …………あ?」
消えてしまうあいつを捕まえよう、と伸ばした腕は虚しく空を掴む。
闇に少しずつ目が慣れるにしたがって、ようやく今の状況が把握できた。
目に映るのはいつもの銀朱の部屋の天井。
……夢、か。
そうだ、もう黒鷹はとっくにいないのに。
あまりに優しく笑ってくれた、最期の表情を思い出すと哀しくなった。
哀しむことをあいつは望んでいないことくらい、よくわかっているのに。わかって……いるのに。
隣の銀朱に目を向けると、起こしてはいなかったらしくほっとする。
傍にいてくれるのに、未だに黒鷹を夢に見る俺を知ったら、こいつはどう思うだろう?
いい気分がするはずはない。
すまない、と心の中でだけで詫びて、再び眠るために目を閉じた。
***
「……っ……黒た……っ! …………あ?」
耳に届いた小さな叫びに、またか。と思った。
時々、玄冬はそうやってうなされている。
繰り返し見ているらしい。
黒の鳥を失う夢を。
こいつがそれを口にしたことはない。
気遣いもあるんだろうが、何より知られたくないのだろう。
だから、俺も何も言わないが、もう一度や二度のことではない。
共に寝ているときでさえ、こうなのだから、
おそらくは一人で寝ているときも夢にみるのだろう。
……無力だな、俺は。
今、どれほど近くにいても玄冬から黒の鳥の影を消せない。
忘れて欲しいわけではない。
記憶を失いでもしない限り、そんなことは不可能なのは解っている。
ただ引き摺らないで欲しいだけだ。
だが、感情は理屈で収まるものではない。
いくら抱きしめても、影を消せない自分の無力さが恨めしかった。
2005/05/09 up
元は拍手レス&short storyブログでやっていたお題。
Kfir(閉鎖) が配布されていた「ヘタレ攻めで5題」、No4より。
玄冬視点&銀朱視点。
- 2008/02/01 (金) 00:09
- 番外編