作品
奉仕(年齢制限有)
[Kuroto's Side]
「ん……っ……」
銀朱の手が、俺自身に沿って適度な刺激を与えてくる。
幾度か肌を重ねたせいか、大分やり方がわかってきているらしい。
焦らされるような触れ方は、明らかに故意のものだろう。
ちらりと銀朱の下腹部に目をやると、興奮を示すモノは先端から雫をこぼしはじめていた。
羞恥心なのか、性格なのか。
あまり銀朱はそれを俺に触れさせようとはしない。
それでも、時折強引に触れるとちょっと困ったような表情になる。
そして、さほどもしないうちに制止してしまうのだ。
反応はしてるから、嫌なわけでもない、とは思うんだが。
そういえば、口でしてやったこともない。
いや、された記憶もない。
あのぬるりとした口の中の温かさや、ざらついた舌の感触、何より、相手の口にそんな場所を委ねる時のあの高揚感を不意に思い出して、喉が鳴った。
……こいつに試してみたらどんな表情になるだろうか。
たまにはそれも悪くないだろう。
銀朱の手を引き剥がして、怪訝そうな顔になったところに体勢を変えて、銀朱の下腹部に顔を寄せると、慌てた声が返ってきた。
「……ちょ……待て! 玄冬!
お前そんなとこに顔を寄せて、何を」
「何って……」
言いかけたところで、何かが繋がった。
「……ああ、もしかしてあんた口でされた経験ないのか?」
「な……っ……くくく、口!?」
真っ赤になって、悲鳴に近い口調でどもる。
図星だったらしい。
「……それは、良いことを聞いた」
どんな風に反応してくれるだろうかと、想像するだけで興奮が高まる。
目の前のモノに指を這わせて、唇をあてた。
「やめ……っ……玄……!」
舌を裏筋に下から上へと滑らせると、銀朱の声が詰まった。
感じる場所を探るように舌を動かしていくと、次いで呻き声があがる。
より一層それが張り詰めたのが分かった。
浮き出た筋を指で軽く押えると、微かに身体が震えて。
そういえば、黒鷹も口でされるのには、割と抵抗を示していたな、とつい思い出す。
――初めて……なんだよ。
もうあれは何時だったか。
黒鷹は直ぐに口でしたがるけれど、俺からはしたことがなかったというのに気付いて試したら、予想以上に過敏にあいつが反応して。
半ば驚いていたら、口でされたのは俺が初めてなんだと、どこか気まずそうにそう呟いた。
黒鷹があんな風になることなんて、滅多になかったし、俺にしかその行為をさせたことがないという事実に、どうしようもないほど気分が高揚した。
そして、銀朱も。
俺しかこの感触や味を知らないのだと思うと、
優越感というか、独占欲というのか、とかくたまらない気分になった。
感じさせたい。もっと。
雫を浮かべている先端を口の中に収めると、腹が波打つようにびくりと動く。
弱そうなそこを舌と唇で重点的に攻めてみると、擦れた声が切なそうに零れる。
「や……めっ……玄、冬」
止めろと言われたところで、開放させてやるつもりなどない。
より深く咥えこんで、口蓋に先端を押し付けるようにしたら、唐突に肩を掴まれ、強引に引き剥がされた。と、その瞬間。
生温かい感触が口元から喉、鎖骨にと跳ねた。
「………………く……っ」
そして、残った精をそれ以上飛ばさぬよう、指で抑えて。
荒く息をついた顔が真っ赤に染まっていた。
「……そのままにしていても飲んでやったのに。
いきなりあれだと危ないぞ。
歯で怪我したらどうするつもりだったんだ」
「五月蝿…………い……!」
多分、少しは歯で掠めた。
傷つけていないかどうか確認しようとしたら、凄い力で寝台に押し倒された。
「おい……銀朱、痛い」
「……貴様、黒の鳥にもこういうふうにしてたのか」
「え……あ……」
目が据わっている。
澄んだ水色の目が氷のように突き刺さる。
「していたん、だな」
「おい、銀……」
「あいつはどんな風にお前を……」
「銀……朱…………っあ!」
腕で身動きとれないよう強く押さえつけられて、それなりの状態になっていたものに、舌が這わされる。
久しぶりにそこに触れる濡れた感触に、より一層血が集まっていくのがわかる。
「随分反応が早いな」
「……ったり前…………だ……!」
口でしている方だって、興奮するに決まっている。
それはまさに今こいつの方だってわかっているだろうに。
その場所にかかる吐息の熱さがそれを証明している。
「っ…………ん……!」
「……そんなに色々教え込まれたか?」
「な……に……」
「…………悪かったな、経験が浅くてっ」
「……っ……誰も、そんなこと言ってな…………っ……うあ!」
唐突に咥えられて、強く吸われる。
快感と痛みがない交ぜになって、思考が麻痺しそうだ。
「やめ…………っ…………く……んん!」
つい一瞬、脳裏に浮かんだ名前を口に出しそうになって、慌てて噛み殺したが。
相手は察してしまったらしい。
顔色がたちまち変わった。
「貴様……っ!」
「っ…………あ!!」
「それでも呼ぶのか……っ」
顔を上げて、体勢を変えられて。
さほど慣らしていなかった部分に、後ろ側からいきなり楔を打ち込まれた。
熱い痛みがそこに走る。
「い……痛…………っ!」
「……その割りにはさして抵抗感はないがな。
さすがに慣れているということか。……淫らだな」
「な…………っ!」
さすがにその言葉に目の前が赤くなった気がした。
黒鷹を責めているように聞こえて、思考が怒りで焼き切れそうだ。
「…………あん……た…………!
あんたには……わからない、のか……っ」
「……何?」
「大事な、相手なら……いくらでも触れたい……し、全て知りたい……っ。
感じさせたいのは当たり前、だろう。
淫らで……何が、悪い……っ……!」
ただ、感じさせたかった。
いなくなった黒鷹の代わりでなく、今ここにいる銀朱を。
それだけ、なのに。
「俺が気に食わんのはな」
「……っ」
腰の動きは緩めずに銀朱が呟く。
「お前のそれが……全て過去の……っ経験で、黒の鳥によって成り立っている、ということだ……っ!」
「………………あうっ!!」
一際深い部分を抉られて。
もう快楽なのか痛みなのかもわからない、
強い刺激にもたらされた闇に、強引に引きずり込まれた。
***
「…………っ」
「気付いたか。……その、痛むか?」
少しぴり、と染みるような痛みに目を覚ますと、銀朱が身体を繋げていた場所にそっと薬を塗ってくれていた。
目に入るタオルが所々僅かにだが赤く染まっている。
出血したのか。
俺も驚いたが、きっとこいつはもっと驚いただろうな。
すっかり表情が意気消沈したものになっている。
「少し染みる程度だ。大したことはない」
「そうか。…………すまん、悪かった」
「……銀朱」
「その…………ついカッとなって」
「もういい。俺もいきなりと言えば、いきなりだったしな。
あんたの方は平気か? 歯で傷つけたりは……」
もしかして、引き剥がされた時に切ったりはしていないかと気になったのだが、銀朱は軽く首を振る。
「赤くなった程度だ。傷ついたりはしていない」
「そうか、ならよかった」
身体を起こして、銀朱の頬に触れると銀朱が躊躇いがちに肩を抱いてきた。
そんなにいつまでも申し訳なさそうでいられても困るんだがな。
だから、大丈夫だというように背を軽くとんとんと叩いてやる。
「……愛想をつかしたくなったか」
「まさか。このくらいでどうにか思うほど短気ではないつもりだ」
何しろ短気では色々やっていけない相手とずっと暮らしていたのだから。
恐らく忍耐力はある。
「どうにも……」
「うん?」
「……その、何と言うか。
お前に色々されると男としてのプライドというか、その……」
「……俺も男だが?」
「それは……! そうなんだが、そうではなく。
……ええい、何でこう俺は上手く言えないんだ!」
それこそ、あんたらしい。とは思ったが口には出さず。
代わりに別のことを言った。
「……コミュニケーション」
「あ?」
「セックスはコミュニケーションだと、あいつが言っていたんだ。
したいときにはそういえばいいし、したくないときにも正直にいえばいい、触れていると触れられたくなるのも当たり前だし、感じたいだけでなく感じさせたいと思うのも自然な欲求だから、変に色々考え込むな、と。
……他に誰がいるわけでもないんだ。
性格もあるんだろうから、すぐに変えろとは言わんが、プライドに左右されて妙なこだわりはするな」
「…………む」
「言葉で言うより伝わることもあるしな」
軽く唇を重ねると、拗ねたような呟きと、小さな溜息。
だが、その後には。
「……善処は、する」
照れてぶっきらぼうに言ったあたりがやっぱり好ましいと思った。
[Ginshu's Side]
「ん……っ……」
玄冬自身に指を這わせ、軽く扱いてやると、玄冬の声が甘い響きを含む。
経験を重ねてきた分、何とはなしにこいつの弱い部分とか、好みの触れ方とかが見えてきている。
達するところまでではなく、かと言って物足りなくもならないように加減しながら触っていく。
僅かに染まった目元。伏せた視線。飲み込まれる呼吸の音。
征服欲が満たされる、とでも言うのだろうか。
自分の手によって感じている様子が伝わってくるのは、こちらの興奮もかなり煽っていく。
以前を考えると、まだ複雑な思いに駆られてしまう時もなくはないが、それは俺の中で時間を掛けて消化していくしか無いのも解っている。
そろそろ、もう少し力を篭めていいかと思った矢先。
玄冬が不意に俺の手を掴んで止めた。
何か気にかかることでもやっただろうか?
そんなことを思った次の瞬間。
体勢を変えられて、俺の下腹部に寄せられた顔にぎょっとする。
「……ちょ……待て! 玄冬!
お前そんなとこに顔を寄せて、何を」
「何って…………ああ、もしかしてあんた口でされた経験ないのか?」
「な……っ……くくく、口!?」
知らないわけじゃない。
性行為にはそういうものもあるというのは、聞いたことがある。
だが、率直なところ、普通の者がやるものではなく、その手のことを職業にしている人間がやる行為なのだと勝手に認識していた。
まさか、やる気なのだろうか、こいつは。
「……それは、良いことを聞いた」
見上げてくる玄冬の目が細められ、笑いの形を取る。
指が触れ、唇が触れる。
その場所に感じた柔らかな熱。
「やめ……っ……玄……!」
ざら、と濡れた舌が裏側の根本から先端へと辿っていく。
その刹那、腰に甘い疼きが走る。
舌は俺のモノから離さずに、そのまま探るようにあちこちへと滑っていった。
こんな快感は初めて知る。
強すぎて考えが纏まらない。
みっともなく出てしまう声が自分のものだと思いたくないが、舌だけでなく指でも刺激を与えられ始めて、吐精したいという欲に支配されてしまいそうだ。
たまらずに、玄冬の頭を退けようと髪に触れたところで、もっと不味いことになった。
玄冬の口がそのまま俺のモノの先端を飲み込んだのだ。
熱い口の中の熱が怪しく蠢く。
カリを舌が這って、より張り詰めていくのが解ってしまう。
いつもは何気ない会話を交わしたり、食事を取ったりするあの口で、と思うと何とも言い難い気分になる。
「や……めっ……玄、冬」
どうして、こんな口淫を抵抗もなく出来るのだろうかと考えかけて、その理由に気付いてしまった。
玄冬にとっては当たり前にやってきたことだからだろう。
黒の鳥を相手に。
――……ああ。何度も抱き合ったとも。
あの子に何もかも教えたのは私だからね。
触れてない場所など、何処にもないし、知らないことも何も無い。
いつぞや、黒の鳥が夢とも現とも解らぬ場所に現れ、そう言っていた。
そこまで言っていた相手だ。
恐らくは、口淫を相手にしたことだけでなく、されたことも。
躊躇う余地など無いくらい、当然のものとして。
「……!」
より、玄冬が深く咥えてくる。
先端に固めの感触が当たり、一気に背筋を射精感が通り抜けていく。
慌てて、玄冬の肩を掴んで引き剥がしたが、少し遅かった。
完全に玄冬を話す前に出始めてしまって、玄冬の口から精液がこぼれ、喉、胸と掛けてしまう。
「………………く……っ」
それ以上はどうにか掛けないよう、自分の指で押さえ込んだが……何てざまだ。
出すところをそのまま直視されるのは、酷く羞恥を煽る。
なのに、こいつときたら。
「……そのままにしていても飲んでやったのに。
いきなりあれだと危ないぞ。
歯で怪我したらどうするつもりだったんだ」
「五月蝿…………い……!」
そんなことまで言う。
飲むことにさえ、躊躇いがないというのか。
ならば、どれほどのことを黒の鳥との間では交わしてきたのか。
それを思うと、怒りで目の前が赤くなった。
衝動に任せて、玄冬の身体をそのまま寝台に押し付ける。
まだ、生々しく漂う精の匂いにも、顔色一つ変えない様が酷く腹立たしい。
「おい……銀朱、痛い」
「……貴様、黒の鳥にもこういうふうにしてたのか」
「え……あ……」
聞くまでもなく解っているはずなのに。
改めて肯定するような態度に、自分の中の何かが切れた。
「していたん、だな」
「おい、銀……」
「あいつはどんな風にお前を……」
抱いた?
愛した?
「銀……朱…………っあ!」
玄冬が動けないよう、腰の当たりを腕で押さえ、勃ち上がりかけている玄冬自身に舌を這わせてみる。
滑らかなそれは、思ったよりも舌触りは悪くない。
味もそれとなく甘ささえ感じさせる。
舌でそのまま触れていると、その部分が一気に固さを増したのが伝わる。
……さっき、俺が扱いていた時よりもずっと早く。
「随分反応が早いな」
「……ったり前…………だ……!」
もしかしたら、ずっとこうされたかったのだろうか。
物足りない思いをさせていただろうか。
「っ…………ん……!」
零れる声はさらに甘くなる。
「……そんなに色々教え込まれたか?」
きっと、俺が試してきた行為なぞ、こいつは知らないものがないに違いない。
「な……に……」
「…………悪かったな、経験が浅くてっ」
「……っ……誰も、そんなこと言ってな…………っ……うあ!」
過去を考えると胸が焦げそうだ。
そんな感情を誤魔化すように、強く吸ったら押さえつけた腹が大きく震えた。
「やめ…………っ…………く……んん!」
……待て。
今、何と言いかけた?
唇がなぞりかけた、その言葉は。
――黒鷹
今でも時折、寝言でその名を呼んでいるのを知っている。
うなされていることもある。
だが、よりにもよってこんな時には。
「貴様……っ!」
「っ…………あ!!」
「それでも呼ぶのか……っ」
一番聞きたくない名前だった。
玄冬の養い親で長く情を交わしていた黒の鳥。
だが、今こうして抱いているのは俺なのに。
お前はあいつのことをまだ呼ぶのか。
今の玄冬の表情を見たくない。
自分の表情も見られたくない。
顔を上げて、玄冬の身体をうつ伏せにさせ、現れた蕾にそのまま一気に挿入する。
全然慣らしてはいなかったはずの其処が、強張ったのは一瞬。
すぐに柔らかく俺を包み込んでくる。
……それもあいつに教えられたか。
「い……痛…………っ!」
「……その割りにはさして抵抗感はないがな。
さすがに慣れているということか。……淫らだな」
「な…………っ!」
――……あんたの想像してる通りだ。
黒鷹とは数え切れないほど抱き合った。
数えきれないほどと言ったな。
どのくらいだ?
あと、何度こうして抱き合えばあいつに並ぶ?
お前の中から、黒の鳥の影が消える?
「…………あん……た…………!
あんたには……わからない、のか……っ」
「……何?」
「大事な、相手なら……いくらでも触れたい……し、全て知りたい……っ。
感じさせたいのは当たり前、だろう。
淫らで……何が、悪い……っ……!」
自分が玄冬を最初に抱いた人間だったなら。
その言葉はどれほど魅力的に響いたことだろうか。
だが。
「俺が気に食わんのはな」
「……っ」
「お前のそれが……全て過去の……っ経験で、黒の鳥によって成り立っている、ということだ……っ!」
「………………あうっ!!」
俺じゃない。
抱きあうことで齎される快感や、満たされる思いを教えたのは……!
どうにもならないと理解はしているのに、自分の中で消化できない。
奥に無理やり突き入れるようにして、強く動く。
熱を吐き出しても、快感よりももどかしさの方が勝る。
……気持ち良くなどない。
身体を強張らせた玄冬は、シーツをきつく掴んだまま動かない。
「……玄……冬? ……っ!?」
生温い液体の感触が繋がった場所に広がる。
其処を伝ってシーツに落ちてきたのは……精液ではなく血。
「しまっ……」
一気に激情が収まって、慌てて引き抜いて傷の場所を確かめる。
幸い、奥は傷つけていないようだ。
入り口が少し切れただけというのを確認して、少しだけ安堵する。
「……すまん」
意識をなくしたままの玄冬には聞こえないだろうと知りつつ、呟いた。
……俺は馬鹿だ。
こんな抱き方をしたかったわけではないのに。
***
「…………っ」
「気付いたか。……その、痛むか?」
玄冬が目覚めた瞬間、僅かに顔が引き攣ったように見えた。
多分、傷に塗っている薬が染みたのだろう。
少し、周囲を見渡すと、今の状況を把握したらしい。
軽く息を吐くと、気まずそうに視線を伏せた。
「少し染みる程度だ。大したことはない」
「そうか。…………すまん、悪かった」
大したことはないと言っても、痛まないわけでもないだろう。
つい我を忘れて傷付けてしまったことに違いはない。
玄冬の方も射精はしていたが、恐らく快感なんてなかっただろう。
「……銀朱」
「その…………ついカッとなって」
「もういい。俺もいきなりと言えば、いきなりだったしな。
あんたの方は平気か? 歯で傷つけたりは……」
こんな時でも俺の方を心配するのか。
……解っているのにな。
こいつが気遣ってくれていることなんて。
俺はそんなことがあったということさえすっかり忘れていた。
「赤くなった程度だ。傷ついたりはしていない」
「そうか、ならよかった」
ふっと笑みを零した玄冬が、身体を起こして俺の頬に触れてくる。
大丈夫だから、とでも言うように。
優しく触れたくて、肩をそっと抱きしめると、子どもをあやすかのように、軽く背を叩いてきた。
……自分の怒りが、子どもじみた独占欲から来ていたのが、少し感情の落ち着いた今なら解るから、情けなくなってくる。
黒の鳥なくして、今の玄冬はありえないのに。
こいつが抱えている、黒の鳥への想いごと一緒に受け止めようと思ったのも自分だというのに。
「……愛想をつかしたくなったか」
「まさか。このくらいでどうにか思うほど短気ではないつもりだ」
笑った気配に安心しつつも、何とも複雑な気分は拭えない。
「どうにも……」
「うん?」
「……その、何と言うか。
お前に色々されると男としてのプライドというか、その……」
「……俺も男だが?」
「それは……! そうなんだが、そうではなく。
……ええい、何でこう俺は上手く言えないんだ!」
言いたいことが上手く伝わらない。
口下手なのは自覚しているし、指摘もされる。
――だから、隊長は誤解されやすいんですよね。特に最初は。
一旦解ってしまうと、とても解りやすい方なんですけども。
いつだったか、文官もそんな事を言っていた。
最初から解りやすく伝えられたらと思うのに。
「……コミュニケーション」
「あ?」
唐突に玄冬の口から出た単語に戸惑い、先を促す。
「セックスはコミュニケーションだと、あいつが言っていたんだ。
したいときにはそういえばいいし、したくないときにも正直にいえばいい、触れていると触れられたくなるのも当たり前だし、感じたいだけでなく感じさせたいと思うのも自然な欲求だから、変に色々考え込むな、と。
……他に誰がいるわけでもないんだ。
性格もあるんだろうから、すぐに変えろとは言わんが、プライドに左右されて妙なこだわりはするな」
「…………む」
「言葉で言うより伝わることもあるしな」
そうして、目と唇を軽く閉ざした仕草が、何を誘っているかくらいは流石に解る。
そっと唇を重ね合わせて、柔らかい感触を味わう。
この唇が、少し前には俺のモノに触れていたと思うと、妙に照れる一方で愛おしくもある。
俺が一旦解ってしまうと、とても解りやすいというのなら、玄冬ももうそれに含まれているのかもしれない。
…………まだまだだな、俺は。
どうにも敵わん。
こういうのも惚れた弱みとでも言うのかも知れない。
だが、玄冬はきっとそれでも笑って慌てなくていいとでも言ってくれるのだろう。
だから。
「……善処は、する」
それだけ呟いた。
声を殺して小さく笑った玄冬に、見透かされているような思いがしたが、それには気付かないふりで、玄冬を抱き寄せながら髪を指で梳いた。
2005/08/17 up
惑楽(閉鎖) が配布されていた「萌えフレーズ100題」、No12より。
アンソロジー「銀玄祭」が小説で長くエロエロできそうなら、やりたかったなーと思っていたのがこれ。
玄冬視点です。
奉仕=フェラ直結でしたが、何かw(爽)
いや、銀朱は絶対経験浅いからフェラされた経験なかっただろうなと!
(そして玄冬は黒鷹にそれこそ色々されてたので(略))
それを察して、ぶっつりときれる銀朱が書きたかったのでした。
黒銀朱降臨w
……今までで書いたうちで一番攻らしい銀朱だなー……(しみじみ)
※2013/11/06
2005/09/18発行の個人誌『その時世界は何を失う?』にタイトル変えて収録していた銀朱視点を手を加えて追加しました。
- 2008/02/01 (金) 00:25
- 番外編
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