作品
二人きり
静かな暗い何もない場所。
僅かに空間に存在する箱庭の明かりだけが、そこに在る二人を照らしている。
「……は……黒……った……」
他に誰がいるわけでもないのに、相変わらず喘ぐ声を抑えようとする玄冬に、黒鷹が苦笑する。
身に染み付いた癖というのは、状況が変わっても、なかなかぬけるものではないらしい。
「また、そうやって。
他に誰がいる訳でもないのに、どうして君はそう声を抑えようとするんだね?」
「馬鹿……っ、お前がいるか……く……っ……!」
既に数え切れないほど肌を重ねているのに、元来の性格ゆえか頑なと言えるほどに、あからさまな反応を返すのを拒む。
もっとも、黒鷹にしてみればそんなところも可愛いと思う部分の一つにすぎない。
玄冬は自分がずっと育てて、傍に在ってきたのだ。
今までも、これからも。
その身体に触れていない箇所など、ただの一箇所たりとも残っていない。
玄冬だって、それをわかっていないはずはないのに。
「いいかげん、私の前で取り繕うのは止しなさい。
……ほら、力を抜いて」
「ふ……っ……!」
「ん……」
不意に腰を引き寄せられて、とうに十分にほぐされた場所に黒鷹がゆっくりと熱い楔を打ち込む。
根元まで深く挿し入れても、それですぐに律動を始めるわけでなく、ただ愛しいものに、大切に大切に触れるように気遣う。
優しく髪を撫でて、唇を静かに玄冬の瞼や耳、唇に落としていく。
そこにあるのは、どこまでも優しい仕草。
ふと泣いてしまいそうにさえなるほどに切なさが襲う。
「……玄冬?」
「ど……してだ……?」
「うん?」
「なんで……そんなにお前は俺に優しくする?」
箱庭を出て、何もない世界にいることを選んだのは自分の我侭で。
黒鷹はただ、その我侭に付き合ってくれてる。
いわば自分の犠牲になったのに。
一緒にここに来てしまったから、死ぬこともない。
本当に他には何もないこの場所でただ漂うだけ。
永遠に。
なのに、寧ろ二人きりになってから黒鷹は一層優しくなった。
その優しさに全身で縋ってしまいそうになる瞬間がある。
「……馬鹿な子だね。君は。本当に」
目元を指で拭われて、泣いていたことに気付いた。
「ここに来る前にいっただろう?
君一人をここで過ごさせてしまうのは辛いんだと。
私は君の鳥だよ、君と共に在る、ね。
……私は君が良いのならそれで本当に何もかも構わないんだよ」
だから、自分を責めるのはもう止しなさい。
私にだって、未だに君に言えていないことがあるのだから。
せめて、縋ってしまえばいい。
まったく。
本当に優しいのは私じゃなくて、君だよ、玄冬。
「……だから、全部。私に預けてしまうと……いい……っ」
「ひ……あ……黒っ……た……か……!」
唐突に与えられた刺激に対処ができず、息があがってゆく。
競りあがる開放感を堪えようとしたときに、耳元で言葉を甘く囁かれて……結局、身体の欲求のままにまかせた。
***
「……黒鷹」
「うん? どうしたね? 眠れないのかい?」
目の前の顔に掛かる髪をかきあげてやると、その手をそっとつかまれた。
そして、ゆっくりとその腕にある古い傷……かつて熊にやられたときの傷を玄冬の指が静かになぞっていく。
「玄冬?」
「お前が…………で良かった」
「ん? 何だって?」
聞き返すと、玄冬は微かに目元を染めて、耳元で呟いた。
「お前が俺の鳥で良かった……そう言ったんだ」
「有り難う。……私も君が玄冬で良かったと。そう思うよ」
お互いさまだね、と笑う気配に玄冬の方も笑みを零す。
永遠の虚無の中でも、一人ではない。
心が凍えてしまわないように、僅かなぬくもりのあることに。
ここに共にいることができる。それが叶う事だけでも
この優しい黒い鳥と、あの創造主に感謝を……。
2004/05/30 up
惑楽(閉鎖) が配布されていた「萌えフレーズ100題」、No13より。
最初のうちに書いたのは、当事者視点じゃないものが多かったようです。
(これ、色々な点で微妙だけど)
そんなわけで、裏花帰葬二次創作の初書き作品。
今となっては色々別モノ感が。
- 2008/01/01 (火) 00:02
- 黒玄
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