作品
ベッドの上
「……黒……鷹っ」
「なん……だい?」
耳元近くで答える黒鷹の声も少し擦れている。
横になったまま、背中側から抱かれているから表情は見えないけど、心なしか声が沈んでいる気がする。
――悪い夢を見てしまってね
そうやって起こされたのが少し前。
眠れないから眠らせてくれとらしくない表情で言ったりなんかするから。
起こされた理不尽さも忘れて、先ほどから抱き合ってるが、黒鷹は激しく動くことはなく、静かに中に入ってきて、時折腰を揺らす以外にはほとんど動かない。
嫌なわけではない。
刺激が物足りないとは思うが、これはこれで心地よいから。
……ただ俺は知っている。
黒鷹がこうやって、ゆっくりと静かに相手の存在を確かめるかのように俺に触れてくるときは、何かの不安を抱えているときなんだということを。
言葉にはしてくれない……いやできないのかもしれない。
そんな時、無闇に踏み込んではいけないと思う。
どうせ、いつものようにはぐらかすだけだろうから、黒鷹は。
だから、せめて何も言わずに望むままに甘えさせてやろうと。
そんな本心は隠して、別のことを口にする。
「辛くないか……? もっと動いても……平気、だ」
「今はこうしていたいからね。……物足りないかい?」
「いや、気持ちいいから……構わない」
「……そうか」
優しく肩口に唇が落とされる。
興奮を高める愛撫のキスではなく、小さい頃によくされた愛しさを込めた優しい愛情のキス。
少しでも俺はお前の支えになれているんだろうか?
***
この子が救世主の剣にかかり、鮮血に染められる。
起きた時に、夢だったことに安堵はしたものの、不安は消えなかった。
理由はわかっている。
君があの子を連れてきたから。
この世でたった一人。
唯一、君を殺せる存在の救世主を。
一瞬、心臓が止まるかと思った。
命の器にまだ余裕はあるのだけれど、まさか、こんなに早く巡り合うとは思っていなかった。
わかっていないはずはないだろうに。
我々の繋がりは特殊だから。
直感というべきか、本能というべきか。
相手が何であるかなんて、理解するのは呼吸をするようにたやすいことだ。
あの子どもから殺気は感じられず、ただおとなしくお茶の時間を過ごしていっただけだったけど、「また来るね」といったその言葉。
どうにも例えようのない、歪んだ黒い感情に包まれた。
だから、ただ確かめたかった。
体温を、鼓動を、吐息を。
君が『生きて』ここにいるのだということを。
繋がった箇所の脈動も、全身で感じてる肌のぬくもりも、擦れた声も。
少しでも長く感じていたくて、ゆっくりと行為を続ける。
それを知ったら、そんなことくらいで、と君は笑うだろうか?
……でも。
「……渡さないよ」
「……っ? 何か……言ったか?」
「いや。……気にしないでくれたまえ」
渡したりなぞしない。
奪わせない。
何もかもを懸けて護ってみせよう。
私の愛しい子を。
私は君を守護する鳥であり、親なのだから。
2004/06/20 up
「惑楽」(お題配布終了)で配布されていた
「萌えフレーズ100題」よりNo95。
- 2013/10/07 (月) 01:38
- 黒玄