花帰葬-Happy Life

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04:confession

物心ついたときには言われてた。
俺たちとくろとやくろたかに血の繋がりはないって。
でも、赤ちゃんのときから育ててるんだから、『うちの子』だって言ってくれてた。
くろも俺も、くろとやくろたかが好きだし、二人だって俺たちを好きだって思ってた。
……でも、本当は邪魔だったのかな。
俺たちがいるから二人とも困ってるのかな。
泣いてるくろを抱きしめながら、俺もどうしようもなく悲しかった。

***

部屋の前に置いた食事がそのままになっている。また何も食べていない。
あれから3日。
ちびたちは部屋から一切出てこようとしないし、飲まず食わずだ。
子どもの体力では、そろそろ本当にきついだろう。

「ちびたか、ちびくろ。聞こえているんだろう」

扉を叩いて伺うと、小さい声で何、と返って来た。
……まずいな、声に覇気がない。
弱っていることを伝えてる。

「頼む。顔を見たく無いなら、それでいい。
せめて、ここに置いてる飯だけでも食べてくれ」
「…………嫌だ」
「ちび」
「部屋を出たら、記憶変えられちゃうかも知れないもん。だから出ない」
「……っ……本当に弱って死んでしまうぞ! 頼むから……」
「……いいよ、それで」
「ち……」
「このまま死んじゃったら、余所に行かなくてすむもん。
くろたかとくろとの邪魔にもならない」
「な……んてことを……!」

鼓動が早くなるのが解る。
ちびたちは本気だ。

「今更、余所の子になんてなれないよ!
くろととくろたかの子どもじゃなくなっちゃうなら、このまま死んじゃった方がいい!!
殺しちゃえばいいでしょ!?」
「……やめてくれ!」

そんな言葉を聞きたいわけじゃない。
もう無理矢理にでも開けるべきだろうか。
でも、それをしたら、今のあいつらならどんな行動にでる?
とりあえず、扉をもう一度叩こうとしたら、黒鷹の手がそれを押さえた。

「黒……鷹」
「ちびくろ、ちびたか。……聞こえているね? 私だ」
「……くろたか」
「全部話すよ。何も隠さず全て。
だから、それを聞いて君たちでどうしたいか決めるといい」
「黒鷹」
「あの子達の道はあの子達が決める。
……玄冬、君にも私にもそれを遮る権利は無い。
だから、二人とも出ておいで。これじゃ出来る話も出来やしないよ」

黒鷹の声は凄く優しい。
しばらくの沈黙の後、ちびたちが伺うように聞いてきた。

「記憶を……消したりしない?」
「ああ」
「……俺たちを何処かへやってしまわないね?
二人とも何処かに行ったりしないね?」
「何処にもやらないし、ここにいる。君たちがそれを望むなら」
「……嫌いになったりしてない?」
「嫌いになったなら、私も玄冬もこんな風に毎日ここに様子を見には来ないよ」
「……っ」

カチャリと扉の鍵が開く音がして、ちび二人が黒鷹と俺に飛びついてきた。
ちびくろは黒鷹に、ちびたかは俺に。
二人とも痩せた。胸が痛い。
言ってしまった言葉の影響に今更ながらに、後悔が襲ってくる。
小さい身体を抱き上げて、謝るほかになかった。

「ごめん、ごめんな、二人とも」
「……う…………」
「わぁぁっ……!」

堰を切ったようにちび二人が大声で泣く。
黒鷹が苦笑いをしながら、俺に向き直った。

「まず、温かいスープを。ずっと何も口にしてなかったんだ。
少しずつでも消化のいいもので、栄養を取らせないと」
「……ああ」

やっぱり、黒鷹には敵わない。……本当に。

***

「……ん、美味しい……」

くろたかの膝の上に乗って、くろとが作ってくれたスープを飲む。
温かくて美味しかった。
でも、すぐにお腹一杯になっちゃう。普段ならまだ飲めるのに。
どうしようかな、と思ったらくろたかがそっとスープ皿を俺の手から下ろした。

「慌てなくていいよ。ずっと食べてなかったんだ。
無理せず、飲める分だけ飲んだらいい」
「うん」

くろたかがそう言ってくれるから、スープはそこで飲むのをやめて、くろたかの身体に寄りかかった。
心臓の音がとくんとくんって聞こえてくる。
たーの胸に耳を当てても、くろとの胸に耳を当てても聞こえる心臓の音。
それは皆一緒なのに、くろたかやくろとは何が違うんだろう?
直ぐ隣のたーの方を見ると、やっぱりくろとにくっついて、髪を撫でて貰っていて。
くろたかの顔を見上げたら、笑って髪を撫でてくれた。
気持ちよくて眠くなりそうだけど、話を聞かなきゃ。

「さて、じゃあ話をするかい? それとも一旦少し休んでからにするかね?」
「今がいい」
「うん、このまま話して」
「わかったよ。そうだな……どこから話そうか。
ちびくろ、ちびたか。
二人とも村に遊びに行ったときに、『救世主』と『玄冬』の話を聞いた、とそう言ったね?」

くろとに言っちゃダメだよってくろたかが言ってたお話のことだ。
いいのかな、と思ったけど、くろたかが言ってるなら言ってもいいんだと思って、たーと顔を見合わせてこくんと頷いた。

「あれは本当のことなんだ。
人が人を殺しすぎた時に……そう、例えば戦争とかね。
それが一定以上になると雪が止まなくなる。ちょうど、今みたいにね」
「雪が……止まない」
「春が来ない、そういうことだ。
留まらない雪はやがて世界の全てを覆っていく。命も何もかも」
「雪で皆……死んじゃうの?」
「そのまま、ならね。
……ただし、その雪を降らせ続けている媒介になっている者を殺せば、また春が来て、世界は続いていく」

怖い。
何か凄く嫌なことを聞いてる気がする。
くろたかの服をぎゅっと掴むと、くろたかが抱きしめてくれた。

「『玄冬』がいると雪は止まない。
……もう、わかるね。玄冬はその雪を降らせる『玄冬』なんだ」
「嘘……」

――そうしたら、俺が死んでもあいつらは悲しむことも……!

そういうことだったの?
くろとが『玄冬』だから、世界が滅びちゃうの?

「どうして、そんな……」
「どうしてかって? 世界をそういう風に作ったからさ。
人が人を殺しすぎない世界を。
それがこの世界を作った方の望みだった。
そうして出来たのがこのシステムだ」
「酷いよ、そんなのってない!」
「まぁ、話は最後まで聞きなさい。
その代わり、『玄冬』は簡単には死なないようになっている。
怪我は直ぐに治るし、守護の鳥がついている。
『玄冬』につく守護の鳥は『黒の鳥』。
またの名を……黒鷹という」
「……っ!!」

直ぐに治るくろとの怪我。
黒い鳥になれるくろたか。
……そう、だったんだ。

「『玄冬』を殺せるのは『救世主』だけだ。
こちらにも守護の鳥がついている。
『白の鳥』、もしくは『白梟』と呼ばれる。
この人は困ったことに責任感が強くてね。
玄冬を殺そうとやっきになって動いている。
君たちが村で聞いた話ももとはあの人が言いふらしたことだ。
全くね、化け物だとはよくも言ってくれたものだよ。
私の可愛い子を何だと思っているのか」
「黒鷹」
「ああ、話が逸れたね。
とにかくね、あの人は必死になって玄冬を殺そうとしている。
守護する肝心の『救世主』はそれを望んではいないのだけれどもね」
「どうしても……くろとが死なないと世界は滅びちゃうの?」

たーが泣きそうな目でくろたかを見てる。

「本当は他にいくつかやり方はあるんだ。
例えば、玄冬を殺さずに私が消える、とかでならね」
「っ……! それはさせない! 前にもそう言ったはずだ!」

くろとが怒鳴った声にびっくりした。
くろとまで泣きそうな顔してる。

「落ち着きなさい、玄冬。
ちびたちに話してるのに、君まで狼狽してどうするんだい」

くろたかが苦笑いして、くろとのおでこにキスした。
それでもくろとは泣きそうな顔したままだった。

「そうする、とは言ってないよ。ちびたち次第だ。
それに『救世主』次第、ともいうかな」
「あ、ねぇ。じゃあ、『救世主』がいなければ、くろとは死ななくて済むの?」
「そうか! 『救世主』さえ、みつからなければくろとは死なないよね!」

『救世主』しか、くろとを殺せないなら『救世主』にさえ会わなければいい。
世界なんて知らない。
くろとを化け物だなんて言う世界なんてどうなったっていい。
くろたかとくろと、それにたーがいてくれるなら。

「生憎だが、それは無理な相談だ。
『救世主』はもう私たちを知っているからね」
「え、どうし……て」
「……君たちも知っている。この家に何度も来てるからね」

俺たちのうちは俺たち以外にはほとんど人が来ない。
何度も来てるのは……一人だけ。
来てる……のは……。

――玄冬! いる? あ、バカトリじゃなくて。

桜色の髪した、赤い目の……おにいちゃん。
くろとにべたべたするから、来るといつもたーが拗ねる。
俺もあのおにいちゃんが苦手だった。
くろとをどこかに連れて行ってしまいそうで。

「花白……おにいちゃんが『救世主』なの?」

花白おにいちゃんだけが、くろとを殺せる。
花白おにいちゃんがいなければ……くろとは殺せない。
くろとは黙って、たーを抱きしめていた。

  • 2010/01/01 (金) 00:05
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