作品
祝福と幸福(黒玄前提救鷹)
「俺、今日誕生日なんだけど」
「そう、おめでとう」
発された言葉には気持ちの欠片も伺えない。
そもそも、こっちを向きもしない。
冷たいったら。
「それだけ?」
「私が言わずとも、君には祝ってくれる人がたくさんいるだろう?
……あの子には私だけだったよ。死ぬまでね」
「…………」
「あの子の生まれたのを喜ぶのは私だけだった。
それに比べたら、君は幸せだろう?」
うつむいたまま、指先で弄んでいるのは桜の花びら。
あの子が死ぬ前に「黒鷹に渡しておいて」って言ってたあれだろう。
「言って欲しい人に言われなきゃ意味ないよ」
「何が望みだい」
「お祝いの言葉」
「さっき、言っただろう?」
「あんな気持ちの篭ってないものカウントするの?」
指先に手を伸ばそうとしたら引っ込められた。
ただの花びらなのに、元は俺が渡したものなのに、
もう他の人に触らせるのも嫌らしい。
「何度言っても、変わらないと思うがね」
「そ。じゃ、ちゅーして」
「……は?」
「祝福のキス、ちゅー。それしてくれたらいい」
「女子どものような事を言うね」
「飢えてんの。アンタたちみたいにしょっちゅうキスしてたような愛情一杯の中でなんて育てられてないから」
「……本当に子どものような理屈だな」
溜息混じりに言われた言葉に失敗したか、と思った。
でも、俯いた瞬間額に柔らかい感触が落ちて。
慌てて顔を上げると、苦笑を浮かべた黒鷹サンが離れた。
「……あれ、ほんとにしてくれた?」
「君が言ったんじゃないか」
「……うん、そうなんだけど」
でも、びっくりした。
ほんとにキスしてくれたことと、そのキス一つでこんなに幸福な気分になってしまった自分に。
「ねぇ。そういえば、アンタの誕生日っていつ?」
「さぁね」
「ずるい。祝ってくれたんだもの。俺だってアンタの誕生日祝いたい」
「必要ないよ」
黄金の瞳が愉快そうに笑った。
「祝いたければ、君の好きなときにやりたまえよ」
2005/05/14 up
2005年誕生日企画の時に黒玄以外にも、玄冬サイドと黒鷹サイドでもう一本ずつ別CPで書こうと目論み、そのうちの黒鷹サイド。
黒玄前提救鷹で救世主視点。
それにしても、タイトルほどの幸せ感のない話だ……。
さらに裏話を言えば、ラストの鷹が暗に言ってるのは、
「祝ってくれるのは玄冬だけで十分だと」いうことなので、
ほんのり救世主のお祝いを拒絶してます。(酷)
そんな全く甘くない背景ですが、恐らくはうちの黒玄前提救鷹では一番甘い話のはず。
- 2008/03/01 (土) 00:01
- 黒玄前提他カプ