花帰葬-Novel

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地下貯蔵庫に食料を置いてこようと、鍵を探したら、保管していたはずの場所になく。
またか、とつい溜め息をつく。
食事を野菜メインにした日は黒鷹が肉を求めて、勝手に貯蔵庫を漁りに行くから、時々鍵の保管場所は変えるのだが、どうしてか、そういう場所を探し当てるのは得意らしく、すぐに見つけられてしまう。
いつもは散らかった部屋の中で、あれがない、これが見当たらないと言ってる癖に。
 
「まったくあいつは……」
 
俺としては、食事の献立の予定も狂うから、勝手に食料を漁るのはいい加減止めておいて欲しいと思うのだが。
そもそも、出してる食事をバランスよく食べればいい話なのだ。
食べないから腹が減って、貯蔵庫漁りなんてことになるんだから。
台所の床にある扉を開けて、下へと続く階段をゆっくり足音を立てないように降りていく。
予想通り、貯蔵庫の僅かに開いた扉の隙間からは灯りが零れている。
勢いよく扉を開くと、こちらに背を向けてる黒鷹の身体がびくりと反応した。
 
「いい加減にしろ」
「……っ……やあ、どうしたんだね、こんな時間に」
 
振り返って、引き攣った笑顔で言ってくるのに対し、容赦なく冷ややかな視線をぶつけてやる。
 
「それはこっちが言いたい。
毎回毎回……出した食事をお前が全部食べればいい話なんだぞ!
こっちだって、色々考えて作ってるのに。少しは作る方の身にもなれ」
「私だって、毎回言ってるじゃないか。
私は猛禽類なんだから、野菜はわざわざ摂取する必要はないと」
「俺も言ってるよな。
曲がりなりにも人型で生活してるなら、バランスよく食えと」
「じゃあ、何かね。
ずっと鳥型でいるなら、肉だけ食べていても文句はないのかね?」
 
言ってるそばから、黒鷹が鳥の形態になって、俺の肩に止まる。  
 
「……本当にずっとそれでいられるならな」
「ほう、それは良いことを聞いた。では、ぜひそうさせてもら……」
「つまりは、お茶を飲むときだとか、風呂のときなんかもそうだということだが。
あぁ、勿論、寝るときもだがな。
俺は一切何をやるときにも手出しはしないからな」
「……っ! なんてことを言うんだい! それじゃあ、君を抱きしめることもできないじゃないか!」
 
バサバサと耳元で激しく羽ばたきをさせる。
 
「良いことを聞いたとか、ぜひそうさせてもらおうとか、言ってなかったか」
「く……」
「で? どうするんだ?」
「そんな小賢しい考え方はどこで覚えたんだい……まったく」
 
再び人型に戻った黒鷹に、後ろから抱きしめられた。
 
「じゃ、決まりだな。戻るぞ」
「まだ、あまり食べてなかったんだけどなぁ」
「黒鷹」
「いや、わかったよ。……なんだい、その手は」
「鍵。よこせ」
「また、どこか別の場所にしまうつもりかね」
「当たり前だ」
「信用ないなぁ」
「そういうことは自分の行動を顧みてから言うんだな」
 
差し出した手のひらに乗せられた鍵を受け取って、懐に入れると黒鷹が耳元で小さく呟いてきた。
 
「だけど、玄冬。
ホントに私がずっと鳥の姿でいたら、君だって困るんじゃないのかい」
「? どうしてだ」
「だってキスしたり、肌を重ねることだってできな……っ」
 
バカなことを言いかけたところで、肘鉄を食らわせてやる。
とりあえず、明日の食事は三食、肉は一片たりとも出すまいと決意した。
鍵も当分、身につけて持ち歩くことにしておこう。 

2004/11/07 up
Uさまからの権利発動リクによるもの。
『黒玄で痴話喧嘩』による表バージョン。
裏バージョンはLove Battle。
うちの黒玄はお互いがお互いに甘いので、意外に痴話喧嘩ネタが少ないです。
小賢しい考え方はどう考えても養い親の影響(笑)

  • 2008/01/01 (火) 00:10
  • 黒玄

タグ:[黒玄][黒鷹][玄冬][日常ほのぼの][玄冬視点]

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