作品
Avvento
「……殺す必要はなかったでしょうに」
私の足元にひれ伏す血塗れの女の遺体を見て、片翼が眉を顰めた。
「何があっても渡さない、と言われたからね。それは私の台詞さ。
素直にこの子を渡してくれれば、私だってここまではしなかった」
私の腕の中で眠る玄冬。
この子は私のものだ。
決してこの女のものではない。
「それに貴方に言われる筋合いはないね。
いつぞや、玄冬を化け物だと知らしめるために、その腸を裂いて生みの母に見せ、死に追いやった貴方には」
「玄冬が死なないことを示しただけです。いくら腸を裂いたところでそれは死なない」
「死ななくても痛みを感じないわけじゃない。
……それにそれで玄冬の母は実際死んだ」
「……貴方の殺したその一人分、確実に滅びが早まってもそれを言いますか?」
「私の手元でないところでこの子が育っても意味が無い。約束しているしね」
――何度だって、お前は俺を育ててくれるだろう? ……愛してくれるだろう?
何度でも。
生まれてきたこの子を育てて愛する。
その為に私は生きている。
共に過ごせる貴い時間に比べれば、多少滅びの早くなったところで構いはしない。
「……せめて、その身を清めてから彩の王城に入ってください。
城の者たちが怯えます」
「解っているよ。私だってそのくらいの分別は持っているさ」
「先に戻っています。血の臭いは好きではありませんから」
私の顔を見ずに白梟は転移装置を使い、この場から消えた。
血の臭いが好きではないとはよくぞ言ったものだ。
かつて、玄冬の腸を裂き、救世主のちびっこに仕事と称して、人を殺させ、その傍でよくやったと顔色一つ変えずに微笑っていたくせに。
まぁ、あの人のことはもういい。
やっと、この子と二人きり。
生まれてくるのをずっと待っていたよ。
「……玄冬」
愛しい子の名を呼ぶ。
それに応じるように眠っていたはずの玄冬は目を開いた。
「……あ……あー」
「逢いたかったよ、玄冬。久しぶりだね」
「あー」
血で汚れた私に怯えることもなく、触れようと小さな手を伸ばしてくる。
抱き方を変えて、その手が頬にあたるようにした。
何度も焦がれたぬくもり。
久しぶりに触れられた。
「解るかい? 私が。私の愛しい玄冬」
「あー」
まるでその問いの答えのように、髪を掴んでひっぱる。
「相変わらず、君は私の髪が好きでいてくれるのかい」
――どうして、俺をこの髪と目の色にしたんだろうな。
――どうせなら、お前と同じ髪と目の色になりたかった。
――幾度も同じ姿で生まれるのなら、一目見てわかる繋がりの証が良かったのに。
「……証なんて、見た目でなくたってわかるだろうに」
「んー……あー」
額にキスを落とすと笑ったような表情になる。
逢えばわかるだろう?
私たちは特別な繋がりにあるのだから。
何にも邪魔されない貴い絆が。
「行こうか、玄冬」
「あー」
また色とりどりの四季を共に過ごそう。
朝も昼も夜も、その都度変わり行く時を愛でよう。
光溢れる中に咲き誇る花と共に、甲高くさえずる鳥の声と共に。
再び開いた楽園への扉。
ねぇ、玄冬。
君のいるところが私の楽園だよ。
2005/04/18 up
かつて、カウンターつけてた時にやっていたキリ番リクエストの一つ。
Mさまからのキリリク話でした。
(しかし、人に捧げるタイプの話じゃないなー……内容がダーク指定とはいえ)
玄冬と一緒に過ごせること以外には興味のない壊れ気味の鷹。
- 2008/01/01 (火) 00:16
- 黒玄