作品
最後の遊戯 -ラスト・ゲーム-
「…………懲りないな。お前も」
「君だって嫌いじゃないくせに」
だが、玄冬の着ている服の襟を寛げ、覗いた白い首筋に唇をあてると玄冬の手が私の頭に添えられた。
やめろ、というように。
「今はそんな気分じゃない」
「ご機嫌斜めだね」
「……何となく、意識に靄がかかっているようで気分が悪い。
少し前からずっと」
自分でもそのことに戸惑っているらしく、眉間に皺が刻まれる。
もしかしたら、本能で感じ取っているのだろうか。
白の鳥という庇護者のいなくなった救世主が、この止まない雪の前についに息絶えてしまった事を。
何度も何度も繰り返した。
生まれてくる都度に殺してくれとの願いどおり、生まれた玄冬を引き取って、育てては時期が来たら殺し、と繰り返して。
それが三桁になる頃だった。
――もう、いいんだ。
その時に生まれたあの子が死の間際にそう言った。
――…………すまなかった。
何についてかは、問う暇も言葉を繋げる暇もなく、そのまま儚く微笑んで眠りについた。が。
その直後に脳裏に響いた言葉は、自分の都合のよい解釈の結果ではなく、あの子が告げていったのだと今も思っている。
――もう、約束を守らなくてもいいんだ。
あの子自身がそう言ったのならば。
もう君は殺させない。
そう誓って、再び生まれてきたあの子を護り、異を唱えようとした片翼を手にかけた。
――貴方だってわかっているんだろう?
――あの方はもうここには戻らない。……私達が何をしても。
――だから、それでもあの方を望むなら。
――……送ってあげようじゃないか。私の手で。
怒りの表情は、哀しみになり。
そして、穏やかに微笑んであの人は逝った。
――勝手な真似をするものだな、黒鷹。
――貴方がそう作ったんだと思いますけどね。……止めますか?
――……好きにしろ。
あの方の影は案の定何もせず。
庇護者のいない救世主は生まれたところで、己の使命を知る由もない。
崩壊の始まった世界で降りしきる雪の中で、他の者達と同じように命尽き果てた。
勿論、玄冬だって自分の立場を知らない。
この子の世界は生まれた時から私が全てだ。
「何時までそう言っていられるかな?」
「……ん……あ、ちょ……本当に…………」
沈んだ思いなど忘れてしまえばいい。
気分が乗らないなら、乗せてしまえばいい。
唇で触れるだけだった首筋を吸い、舌先で辿ると、軽く髪が掴まれた。
頭上で荒くなり始めた呼吸が聞こえる。
「…………っと……に……勝手……だな……」
「……君に言われたくないね」
「……っあ!」
素直な癖に変なところで頑固。
そんな君が可愛くてたまらない。
だから、大人しくこの腕の中で身を委ねてしまうといい。
もう世界には私達しかいないのだから。
ねぇ、玄冬?
君だってそう望んだだろう?
2006/?/? up
かつて運営していた企画サイトFlower's Mixでサンプル用に置いてた話の一つ。
もう一つの話はこちら。
ちなみに、サンプル原案内容は以下。
『黒玄。日常の甘いやりとりの話で。他のキャラは出さない方向で。
(会話の中で出て来る程度までならOK)
「何時までそう言っていられるかな?」と言う台詞を
話の何処かで黒鷹に言わせてください。』
サンプル用なので、がっつり趣味に走りました(爽)
こちらは春告げの鳥EDの約束破りパターンで甘くしつつ、話の背景は暗くな形に。
- 2008/01/01 (火) 00:23
- 黒玄