作品
柔らかな温もり
「……っ…………!? ……あ……夢、か……」
白く染まる世界の夢を見て。
ぞっとするような感覚に目を覚ます。
起きたら、いつもの自分の部屋であったことに、心底ほっとした。
幼い頃に自分が『玄冬』だと聞かされてから、時々見る悪夢。
知っている人々、皆が……黒鷹も含めて。
表情もなく、白い雪原に横たわり、その上に雪が積もっていく。
いや、悪夢ではない。
俺が生きている限り、いつかは起こりうることだ。
いやに乾いた感触の喉を潤そうと、寝台を降りて台所に向かった。
冷たい水をゆっくりと飲んで少しだけ落ち着くが、それでもまだ眠れそうにない。
「……眠れないのかい?」
ふいに掛けられた声に驚く。
何時の間に来ていたのだろう。
「起きてたのか」
「まぁね。大丈夫かい?」
「……何、が」
気遣う言葉を掛けられて、一瞬言葉に詰まった。
見透かされているような様子に困惑する。
何も言ってはいないというのに。
戸惑う様子が伝わったのか、黒鷹が表情を和らげた。
「眠れないなら、私の部屋に来なさい」
「え…………あ……」
黒鷹が俺の手を引いて、自分の部屋へと歩き出す。
振り払う気にもなれず、その誘われるままに歩く。
でも、さすがにベッドまで連れてこられて困惑した。
「……今、あんまりそんな気分じゃないんだが……」
いっそ、疲れ果ててしまえば、眠りにはつけるのかも知れないけど。
それでは、黒鷹に八つ当たりしてるかのようで、悪い。
「違うよ。普通に寝るだけだ。添い寝だよ」
「……普通に?」
「そう、普通に。おいで」
先にベッドに入った黒鷹に促されて、結局、俺も黒鷹の横に入り込む。
少し体温を残したシーツの感触にいぶかしんだとき、黒鷹がそっと身体を引き寄せて、抱きしめてきた。
布地ごしの体温は優しい温かさで、軽く頭を撫でられる感触は心地よく、目を閉じた。
少しずつ、心が落ち着いて……安らいでくるのがわかる。
そういえば。
昔からこの夢を見た後。
大体、黒鷹がこうやって抱いてくれてたような気がする。
そうだ……気のせいじゃない。まさか……。
「……黒鷹」
「うん?」
「お前……もしかして……わかるのか?」
「……何がだい?」
少し声が遠くなる。
いつの間にか、纏わりつかれた眠気に負けそうだ。
「俺が……夢……を……」
「……おやすみ、玄冬」
静かに額に口付けが落とされた、と思ったときにはもう意識は霞んでいた。
***
安らかな顔で眠りについた玄冬を起こさないように、そっと触れていた髪にキスをする。
「君が何を言いかけていたか……本当はわかるんだけどね」
知らないでいるといい。
気に病ませるつもりはないから。
……どうしてもね。聞こえてしまうんだ。
君の意識の叫びのようなものが、感じられてしまう。
きっとね、君の『玄冬』であることで感じてしまう悲しみを分け合えるようにできているのだろう。
私は『黒の鳥』だから。
本当にその時が来たとしても、私にできるのは君を護ることだけ。
実際にどうするか考えて選ぶのは君。
だから、せめて。
その時が訪れるまでは。
「……受け止めてあげるよ」
喜びも、怒りも、哀しみも、楽しさも。君の全てを。
2004/10/02 up
雪花亭で配布されている
「花帰葬好きさんに22のお題」よりNo10を使って書いた話です。
最初温もりというとどうしても裏仕様の話になりそうだったのは内緒です(笑)
- 2008/01/01 (火) 00:24
- 黒玄