作品
料理
「黒鷹、起きてるか?
お粥を作って持ってきたぞ。大丈夫そうなら食え」
「……うー……何だい、野菜粥じゃないか。
どうせなら肉が入ってると嬉しかったなぁ」
「生肉を食って、腹を下してるくせにまだ肉とかいうのか、お前は!」
ここまで肉に執着するあたりがいっそ凄いというべきか。
「だって、野菜は食べたいとは思わないわけで……」
「消化にいいんだ。こういう時くらい、大人しく食え」
「はいはい」
「……待て。その構えは何だ?」
ベッドに起き上がった黒鷹は、自分で器を持とうとはせず、餌を待ち構えてる雛鳥の如くに、口を開けている。
「え? 君が食べさせてくれるんじゃないのかい?」
「…………子どもみたいだな」
呆れつつもまぁ病人だし仕方ないかと、レンゲを取って少し冷ましてから、黒鷹の口元にお粥を運ぶ。
俺も大概甘いのかも知れない。
「ん、美味しいよ。やっぱり玄冬は料理が上手だね」
「だったら、野菜だろうと何だろうといつも残さず食って貰いたいものだな」
「う。いや、それは……その」
「残さず食ったら、今回みたいに腹が空いたからと勝手に狩りに行ってその肉を火も通さず、そのまま食うなんてことをやらないだろう?
量は十分に作ってるつもりだからな、これでも」
「……苛めないでくれないか」
「お前が悪い」
複雑な表情になった黒鷹を前に、しばらくは消化の都合を理由に野菜料理を続けるのもありだな、と内心思いついたのは言わないでおこう。
***
「黒鷹、腹の具合はどうだ?」
横になったままで本を読んでいると、玄冬が部屋にきてそう尋ねてきた。
「ん、心配いらないよ。大分楽になった」
「……そうか。なら良かった」
玄冬がベッドに腰掛けたところで、本を置いて、くいと服の裾を引く。
「うん?」
「少しだけ、ベッドに入ってこないかい?
寒い気がしてね。温かさが欲しい」
「……大丈夫か?」
玄冬が私の言葉に従って、ベッドに入ってきて、抱きしめてくれる。
衣服越しに伝わるぬくもりが心地よくて目を閉じる。
「ん、温かくていい気持ちだ」
「…………お前、少し熱いぞ。熱があるんじゃないのか?」
「そうかい? ああ、もしかして寒気がしてたのはそのせいかな。
でも大したことはないよ」
大丈夫だから、というように玄冬の背を軽く叩くと、玄冬の腕に少し力が籠められる。
「……こっちは心配するんだからな」
「玄冬」
「俺は体調を崩すことがないから、わからないんだ。
代わってだってやれない。
お前だって滅多にこういうことにならないし。
……だから大丈夫だろうとわかっていても……その……」
「……すまない」
不安がらせてしまっていたらしい。
今回のは私の自業自得と言えばそれまでなのだが、玄冬のことだ。
厳しいことを言いつつも気になってしまうんだろう。
この子らしい。
ああ、そうか。それなら気にならないようにしてやればいいのか。
「でも、ほら。こういう風になるとちょっとだけ君の状況がわかるというか」
「あ?」
「ほら、抱いた時に後始末し損ねた場合の状態とい……痛いな!
今、君本気で叩いたね!?」
「お前が悪い!!」
真っ赤になって、振り上げた腕が微かに震えている。
叩かれた頭は痛かったが、照れた様子が可愛くてつい笑った。
「でも、わかりやすい例えだっただろう?」
「お前……っ」
「……心配しなくても大丈夫だ。
明日か明後日にはちゃんといつも通りになるんだから」
「…………の馬鹿……っ」
再びぎゅっと抱きしめてくれた玄冬の体温が心地よい。
が、次に言われた台詞に一気に背筋が凍った。
「完全に元の調子に戻るまでは肉はお預けだからな。外出も禁止だ」
「何だって!? 君、それはあまりに……っ」
「…………黒鷹」
「う……」
調子の悪い身体よりも、君の言葉が堪えたと言ったなら。
呆れられるかな。ねぇ玄冬。
色んな意味で私は君に敵わない。
2005/07/29&2005/08/24 up
一日一黒玄でやった「玄冬好きさんへの10のお題」に、黒玄メールマガジン(携帯版)第12回配信分で書いたその後のエピソードをまとめました。
お腹を壊した黒鷹を玄冬が看病するというのは一度書いてみたかったのです。
- 2008/01/01 (火) 00:26
- 黒玄