作品
唇でつないで
[Kurotaka's Side]
居間でお茶を飲みながら、買って来たばかりの本に目を通していると、不意に視線を感じて。
顔を上げると玄冬が何か言いたげにこちらを向いていた。
「どうかしたかい?」
「え……あ、いや。何でもない」
「? なら、いいけども」
再び本に目を戻したが、相変わらず視線を感じる。
ちらりと様子を伺うと、玄冬がほんのりと目元を染めていて。
ようやく、玄冬の目の中に浮かぶ炎に気がついた。
なるほど、ね。
気がついた以上はもう本に意識を戻すことなどできるはずもない。
本を閉じて、机の上に置いた。
もう続きは明日だ。
「……玄冬、おいで」
「何……っ…………ん!」
呼び寄せて、近づいたところにすかさず口付けを交わす。
ほんの僅か、硬直していた身体はすぐに緊張を解いて、躊躇いがちに腕が私の身体に回される。
伝わる体温は少しいつもより高い。
唇を開放させた玄冬の目が潤み始めていて、自分の中でも情欲が湧き上がるのがわかった。
「前に言っただろう? セックスはコミュニケーションなんだから、
したいときにしたいと言ってくれていいんだと。
……まだ言葉にするのを躊躇うかい?」
「…………っ! なん……で、わかった……?」
「どうしてわからないと思うんだい?」
わかるに決まっている。
まして、キスを交わしたらもう確信できるよ。
「……ごめん」
「どうして、謝るね?」
「言って欲しかった、だろう」
申し訳なさそうにつぶやくこの子が可愛い。
確かに言って貰えたらと思わないわけじゃない。
しかし、その一方で目は口ほどに物を言う、ともある。
本人は自覚してないのだろうが、玄冬の熱っぽい視線はどんな一言よりも鮮烈に私を煽る。
「別に構わないよ、そんなこと」
だから、そう言って、もう一度軽く口付ける。
「その目でもう言いたいことはわかるから。
……結果は変わらないのだし。ね?」
ベッドに行こうか、と玄冬の耳元に囁きを落として。
微かに頷いて預けられた温もりをぎゅっと抱きしめた。
[Kuroto's Side]
黒鷹が俺の淹れたお茶を飲みながら、先日市場で買って来たばかりだと
言っていた本を読んでいる。
俺はといえば、やはりお茶を飲んではいるが、他に何をするでもなく。
伏せた黄金の目が文字を追っていくさまをただ見ていた。
――……挿れるよ?
ふと、その伏せた目が俺の方に向いた瞬間を想像して少し慌てた。
よりにもよってなんてところを思い出すのか、俺も。
思い出させた原因はそれを知る由もないのだが、ほんの少し恨みがましい目で見てしまっていたのかも知れない。
顔を上げた黒鷹が不思議そうに問いかけてくる。
「どうかしたかい?」
「え……あ、いや。何でもない」
「? なら、いいけども」
本に視線を戻した黒鷹に気付かれないよう、軽く息をつく。
熱を秘めた目が脳裏から離れない。……したい、かも知れない。
あの目に近くで見て欲しい。触れられたい。キスしたい。
――セックスはコミュニケーションだからね。したくなければ、そういえばいいし、したければしたいと言ってくれればいい。
黒鷹はそうやって言ってくれたけど、大抵黒鷹が言い出してくれるものだから、自分でどうそれを言っていいものか、抱き合ってからしばらく経つというのに、今でも戸惑う。
たった一言なのに。
どうしていつまでたっても自分で言えないんだろう。
本を読み終わったら言ってみようか。
邪魔をしたいわけじゃないし、それまでにどう切り出したらいいのか考えておけばいい。
だけど、そう思った矢先。
黒鷹が読んでいたはずの本を閉じて、机の上に置く。
まだ読み終わるまで、先は長かったはずなのに。
顔を上げた黒鷹がふっと笑って、俺を手招きする。
「……玄冬、おいで」
「何……っ…………ん!」
呼ばれるままに近づいたところに唐突にキスをされて。
一瞬戸惑うものの、優しい柔らかい感触が心地よくて、腕を黒鷹の身体に回す。
服越しにわかる体温も気持ちがいい。
こんなことされたら堪え切れやしないのに。
唇が離れていって目を開けたら、黒鷹の目が熱を灯しているのに気がついた。
さっきまで思い出していた、あの目で俺を見ている。
「前に言っただろう? セックスはコミュニケーションなんだから、
したいときにしたいと言ってくれていいんだと。
……まだ言葉にするのを躊躇うかい?」
「…………っ! なん……で、わかった……?」
また。俺が言うより早く黒鷹が気付いている。
そんなにわかりやすい顔をしていただろうか。
「どうしてわからないと思うんだい?」
そう微笑み返されたけど、どうにも申し訳なさが先立つ。
「……ごめん」
「どうして、謝るね?」
「言って欲しかった、だろう」
本当は。
言葉で言った方が嬉しいだろうとわかっているのに、先に気付かせた。
「別に構わないよ、そんなこと」
再び軽く口付けされて、黒鷹が笑う。
「その目でもう言いたいことはわかるから。
……結果は変わらないのだし。ね?」
ベッドに行こうか、と囁く声に頷いて身体を預けた。
やっぱり黒鷹には敵わない。
2005/08/11&2006/09/06 up
黒鷹視点は一日一黒玄でやったKfir(閉鎖)で配布されていた
「甘いキスの10題」、No7でした。
玄冬視点は黒玄メールマガジン(携帯版)第13回配信分。
- 2008/01/01 (火) 00:28
- 黒玄