作品
永遠の誓約
[Kuroto's Side]
「……お前なら約束を守ってくれると思っていたんだ」
あの時点で記憶は戻っていなかった。
でも、直感というのか、本能というのか。
黒鷹なら必ず守ってくれると思っていた。
俺との約束だから。
「狡いね」
「養い親に似たからな」
「言ってくれる」
苦笑した黒鷹が俺の首筋に顔を埋めて、口付け、肌を吸った。
甘い感覚に身じろぎすると、低い笑いが零れる。
「……そんなことをいうから、私は何時まで経っても約束を破れない」
「……破らせるつもりはないしな」
「本当に……いらないところで私に似なくてもいいのに」
顔を上げて黒鷹が寄せてくる唇に、目を閉じて待つ。
唇を触れ合わせるだけの軽い口付け。
柔らかい感触が名残惜しさを残しながら、離れていく。
「まるで誓約の言葉だ。永遠の願いを誓うような、ね」
「そうだな」
――俺が生まれる限り、俺を殺し続けてくれ。……お前にしか頼めないんだ。
わかっていた。
俺の願いを黒鷹は拒まないだろうことを。
全てわかっていながら言った。
お前を縛る言葉を。
だから、黒鷹は俺の為に生きて、俺の為に約束を守り続ける。
「……永遠に共にある。まるで、プロポーズのようだ」
「病めるときも、健やかなる時も、か? ……遠からず近からずだな」
「ああ。決定的な違いはね、私たちは『死が二人を分かつまで』で終わらないことだ」
泣きなくなるほどに優しい笑い。
「死も私たちを分けられない」
何度でもお前に愛される。それは永遠の楽園。
何度もお前を残して逝く。それは永遠の地獄。
――お前に育てられて良かったと思う。
いつかの記憶が残っていても、残っていなくても。
俺は死ぬ間際そう思うだろう。
今までも。これからもずっと。
「ああ……ずっと一緒だ。死んでも繋がっている」
身体の繋がりより、血の繋がりより、強く強く。
お前の全てが俺の全てで、俺の全てがお前の全て。
――俺を殺し続けてくれ。
それはたった一人に永遠を誓った言葉。
[Kurotaka's Side]
「……お前なら約束を守ってくれると思っていたんだ」
ああ、覚えているよ。
疑いのない真っ直ぐな眼差しを。
記憶の戻っていなかったくせに信用していると言い切った、
あの時の君の目を私は忘れてはいない。
「狡いね」
「養い親に似たからな」
「言ってくれる」
苦く笑う以外に何が出来る?
間違っていない。
この子にそう言わせるよう育てたのは確かに私だ。
玄冬の首筋に顔を埋めて、口付け、肌を吸う。
一瞬だけ赤くなった肌はすぐに元の白さを取り戻すけど、感じてくれてる証拠に身体が微かに震える。
幾度抱いても、何度生まれ変わっても、この子の身体は私に応えてくれる。
愛しくてたまらない。だから。
「……そんなことをいうから、私は何時まで経っても約束を破れない」
違う、この子の所為ではないのくらいわかっている。
会えるのが嬉しくて、育てられるのが嬉しくて、破れないのは私だ。
「……破らせるつもりはないしな」
「本当に……いらないところで私に似なくてもいいのに」
知っているのかもしれない。この子は。
私のそんな狡さを。
だけどそれに甘えるこの子も狡い。
結局は君に抗えない甘さを持つ私をわかっている。
ああ、どうしてそんなところだけ似てしまっているのか。
口付けを交わそうと寄せた顔に、瞼が閉ざされる。
そっと柔らかい感触を愉しむように、ただ触れ合わせ、そうして離れると、深い青の目が開いて私を見る。
私の一番好きな色が優しく。
「まるで誓約の言葉だ。永遠の願いを誓うような、ね」
「そうだな」
忘れない。絶対に。
二度と聞きたくはないあの言葉。
――俺が生まれる限り、俺を殺し続けてくれ。……お前にしか頼めないんだ。
どうして、私にしか頼めない、と全てを預けるように請われて拒める?
箱庭そのものにはもう何の興味もない。
私はただ玄冬が生まれてくるのを待って、生まれたら慈しんで育てて愛して。
それだけの為にここにいる。
玄冬の為だけに。
永遠にこの子と繰り返し過ごしていく為だけに。
「……永遠に共にある。まるで、プロポーズのようだ」
「病めるときも、健やかなる時も、か? ……遠からず近からずだな」
「ああ。決定的な違いはね、私たちは『死が二人を分かつまで』で終わらないことだ」
だって君はまた生まれてくる。
私は再び君を抱ける。
分かれても一時のことだ。
本当に分けることなぞできやしない。
「死も私たちを分けられない」
何度、繰り返し生まれてきても愛しているよ、私の子。
逝くときの心の痛みを覚えていても、君が傍にいるときの喜びは計り知れないから。
――俺、黒鷹大好きだよ。
かつての記憶が残っていても、残っていなくても。
君がそうやって言ってくれるのを。
求めてくれるのを知っているから、手離さない。
君は永遠に私のもので、私は永遠に君のものだ。
「ああ……ずっと一緒だ。死んでも繋がっている」
二度と聞きたくはない言葉。だけどあれは。
永遠の誓いの言葉でもあるんだ。
――俺を殺し続けてくれ。
誓うよ。この先もずっと。私は君を殺し続けていこう。
君と共にこの世界に在り続ける為に。
2005/04/18 up
「惑楽」(お題配布終了)で配布されていた
「萌えフレーズ100題」よりNo98を使って書いた話です。(玄冬視点)
後に黒玄メールマガジンの臨時お知らせ号からの再録で黒鷹視点を書いた時に原題の「プロポーズの言葉」よりこっちにしたかったので変更してしまいました。
でもって、玄冬視点は2005/09/18発行の個人誌『Vocalise』にも収録してました。
- 2008/01/01 (火) 00:33
- 黒玄