作品
おいしい?
「つまみを作ってきたぞ」
「ん。ありがとう……って、玄冬。何だい、これは」
「見ての通りだが? 上手くできたぞ、野菜のフライチップ」
「……腸詰肉とか、燻製とかが良かったなぁ、私は」
「あまり野菜という感じがしないと思うがな、これだと」
自分でもチップを摘み上げて口に入れてみる。
うん、香辛料も程よくきいているし、揚げた状態も丁度いい。
中々美味いものになっているのだが、黒鷹は手を伸ばそうとせずに、ひたすら酒ばっかり飲んでいる。
何も食わないで飲むだけだと、身体によくないのに。
「せめて、少しは食ったらどうだ」
「気が進まないんだよ。
何もささやかな楽しみのひとときまで野菜を出してくることはないじゃないか」
「お前な……」
「君が食べさせてくれるなら、考えるけどね」
「子どもみたいなことを」
つい軽く溜息を吐いてしまうくらいは仕方ないだろう。
チップを取って黒鷹の口元に運んだが、違うとばかりに首を振る。
「そうじゃない、そうじゃないよ!
食べさせてくれるといったら、相場は口移しで、と決まっているだろう!?」
「決まっていない!!」
「いいじゃないか、今更だし、減るものでもなし」
「そういう問題じゃないんだがな……」
俺も大概甘い。
ここで拒まないからこいつが調子に乗るんだとわかっているはずなのに。
手にしていたチップを口に含んで、間髪いれずに黒鷹に口付け、それを舌で黒鷹の口の中に押し込む。
ただ押し込むだけじゃ面白くないから、少しだけ口の中で遊ばせて。
舌をひいて、チップが咀嚼されたのを確認してから唇を離した。
「どうだ? 美味いだろう?」
「……案外いけるね。確かに野菜という感じはしない」
「だろう? じゃあ、他のも食って……」
皿を黒鷹の方に寄せようとしたら、その手を掴まれた。
しまった、目が笑っていない。さっきので遊びすぎたか。
「チップも確かに美味しいが、君の舌の方がもっと美味しかったから、私としてはぜひそっちを食したいところだな。
勿論、舌だけでなく全身を」
「……ちょ……お前!」
「まったくわかっていなかった、とは言わせないよ。
予想していなかったなんてことはないはずだ。
短いつきあいじゃないのだからね」
「…………く」
「安心しなさい。チップも君を頂いたあとにしっかり頂くから。
……だから、まずは君から」
深く口付けされて、抵抗することはやめた。
わかっていて流されている時点でお互い様だ。
2005/?/?
「amourette@718」(お題配布終了)で配布されていた
「食に関する10のお題」よりNo8を使って書いた話です。
- 2008/01/01 (火) 00:34
- 黒玄