作品
どんな時でも
「ん? 何か……温かい……? あ」
昨夜は一人で寝ていたはずと、記憶を辿りながら目を開ける。
ふと横を向くと黒鷹が気持ち良さそうな顔で寝ていた。
俺の身体にしっかりと腕を巻きつけて。
いつの間に俺の寝床に潜りこんでいたのやら。
互いに寝巻きを着ているし、身体の感覚を考えても、特に何かをしたわけではないだろうというのはわかる。
そういえば、昨晩は少し冷え込みが強かったから、寝つくのに時間が掛かった。
寒くて寝られないからとか、おそらくそんなとこだろう。
「ん……。おはよう、玄冬」
「おはよう。……お前、人のベッドに黙って潜り込むのは止めろ」
「来たとき、気持ち良さそうに寝ていたから、起こすのは忍びなかったんだよ」
腕に力が入って、抱き寄せられる。
少し離れていた黒鷹の顔が一気に近くなった。
「起きたときにびっくりする」
「どうせ、この家には私たちしかいないだろうに」
「それはそうだが……ここに来たのは寒くて寝られなかったからか?」
「まぁ、ね」
ごくごく僅かに含まれた間。
それは多分、他人が聞いてもわからない程度の。
でも、俺は生憎と他人じゃないから、その言葉が真実とはちょっと異なるのがわかってしまった。
と、いうことは。
「嫌な夢でも見たのか?」
「どうだろうね」
より強く抱きしめられて、やっぱりかと思う。
俺も黒鷹の身体に腕を回し、抱きしめ返した。
「……俺はここにいる」
「うん」
「黙ってどこかに行ったりなんかしない」
「そうであって欲しいと願うよ」
「ん……」
重ねられた唇は何かを誤魔化してるようにも思えたけど、それには気付かないふりをする。
本当は気付かれたくはないだろうから。
「おい、そろそろ起きる時間だぞ」
「いいじゃないか。もう少しだけこうしていても」
「……あと少しだけだからな」
心のどこかにある不吉な予感を振り払うように、いつまでもこうしていられればいいと。
願いながら、優しい温もりの中で目を閉じた。
この温もりで互いの不安が少しでも消えていけばいい。
どんな時でも、お前に笑っていて欲しいから。
2004/12/23 up
元は黒玄祭出展作。玄冬視点。
別バージョンで穏やかな朝寝には終わらなかった裏バージョンはこちら。
- 2013/09/08 (日) 22:25
- 黒玄