作品
正しい(?)食事風景
「……お前、またそうやって……」
夕食に作ったポトフ。
黒鷹の皿に取り分けた分のうち、しっかり腸詰めの肉などは綺麗に平らげているくせに、野菜は見事に残っている。
いつものこととはいえ、溜息の一つもつきたくなるというものだ。
「だから。私は猛禽類なんだよ。わざわざ野菜は摂取する必要は……」
「何度も聞いた。が、俺も言ってあるよな?
人型で生活してるなら肉に限らず、野菜でも何でもバランスよく食えと」
「君の料理は美味しいんだけど、時々得体の知れないものまで入ってるからねぇ……」
「人聞きの悪いことを言うな。ちゃんと食べられる食材しか使っていない」
限られた食材を有効活用するのは当然のことだ。
「黒鷹」
「……んー……仕方ないなぁ。
じゃあ、君がそれを私に食べさせてくれたら、今日のところは私が折れることにしよう。約束するよ」
「……お前な。子どもじゃないんだから」
「妥協案を出すだけ、ましだと思ってもらいたいね」
確かに普段なら問答無用で食卓を後にすることを考えれば、折れてはいるんだろう。
言いなりになるような形になってしまうのは癪だが、少なくとも作った料理は無駄にならずに済む。
黒鷹の使っていたフォークを取り、ポトフの具材をさして、黒鷹の口元に持っていく。
すると、黒鷹が首を振って抗議する。
「ノン! そうじゃないだろう!
食べさせるといったら、口移しが相場と決まってるじゃないか!」
「何だと!?」
「当たり前じゃないか。
そんなちびっこでもできるような食べさせ方をしたってつまらないだろう」
食事につまる、つまらないの問題もあったものではない。
そこでようやく気がついた。
「……お前、最初から食う気ないだろう!」
「そんなことはないさ。口移しが相場と言ったじゃないか」
そんなことを言って笑った目元に、ぶつり、と。
自分の中で何かが切れた。
「……食うんだな」
「うん?」
「口移しなら食うんだな?」
「え……ちょっと玄……!」
フォークに刺していた野菜を自分の口元へ運び、軽く咀嚼してから、黒鷹の顎を捉えて口付け。
舌に食べ物を乗せて、黒鷹の口内に無理やり流し込む。
食べ物を飲み込み、喉が鳴るのを確認してから唇を離した。
あっけに取られたような表情の黒鷹と視線が合う。
「……びっくりしたなぁ。本当にしてくれるとは思わなかったよ」
「食うっていったのはお前だからな」
黒鷹の表情と言葉に、なんとなく勝ち誇った気分になり、さらに続けようと、空いたフォークにまた野菜を刺そうとしたところで、黒鷹の手が抑える。
「でも、この方法は失敗だったね」
「あ? ……っ!」
手からフォークが落ち、皿に当たって甲高く音を立てたかと思うと、黒鷹の唇が俺の唇に重ねられた。
割り込まれた舌から逃れようとする間もなく、口の中を隅々まで探られ、軽く身体の中に快感が広がっていく。
口内からポトフの味が消え失せる頃にようやく唇が離れたが、一度広がった快感は消えない。
「黒鷹……っ」
「野菜より何より。君が食べたくなるに決まってるだろう」
「……っ!」
首筋を甘噛みされて、喉元を辿っていく指に、身体が反応するのを自覚しながらも食卓の上の残った料理に視線を投げかけ、未練がましくも言ってみる。
「約束……だからな……っ!」
「ああ」
笑いを含んだ声が耳元で囁いた。
「野菜はちゃんと食べるとも。……君を頂いたあとに、ね」
2004/12/23 up
当時、相互リンク記念で書いたFさまへの捧げ物。
リクは「ほのぼのイチャイチャラブラブな黒玄」。
食べ物絡みはどうもエロ方向に転びがち。
- 2013/09/09 (月) 18:51
- 黒玄