作品
捕まえてあげる(黒玄前提救鷹)
「……何だい、この手は」
「捕まえてる。見ればわかるデショ?」
腕を掴まれて、振りほどこうとしたが、ことのほか強い力が入っている。
離す気配もない。
「出かけるところなんだけどね、これでも」
「俺を置いていくの?」
「なんで君を連れて行かなきゃならないんだい」
「だってもう帰ってくる気ないんでしょ、ここに。
もうあの子いないもんね」
「……」
当たり前だ。
彩にいるのはあの子が生きている間だけで十分。
あの子がいないなら、塔に戻っている。
他に何が?
私がここにいる理由はもう何処にもない。
少なくとも今の時点では。
「アンタに逢えなくなるのは嫌。だから捕まえてあげる」
「……少し言葉がおかしくないかい。
それだと私が捕まることを望んでるように聞こえるがね」
「構ってもらいたいんじゃないの?」
「読み違いだね。君といる位なら一人になりたいさ」
「俺じゃあの子の代わりにはなれない?」
「あの子を殺した君が代わりになれると思うのも滑稽だね」
「俺はアンタが出来ないから代わりに殺してあげてるだけじゃな……っ!」
空いた方の腕で彼の首に手をかける。
ぎり、と力を籠めると余裕のあった表情が崩れた。
「……口を慎みたまえ。今、この場で殺されたいのかい。
言っておくが躊躇いはしないよ。
その分、次のあの子が早く生まれてくるからね」
「……ふ……ふふ」
「何が可笑しい?」
再び余裕を見せた笑いが気に障る。
「可笑しいよ。
だって、あの子には見せなかった顔を俺は今見てる。
愉快になるに決まってるじゃない。
俺は素のアンタを見てる。黒の鳥、のアンタを」
「……っ!」
一瞬の隙をつかれて、壁にダン!と身体を押し付けられる。
唇を掠め取られても、身動きが出来なかった。
「捕まえた」
真紅の目が愉快そうに揺れる。
「どうせ、俺の方がアンタより早く死ぬよ。
そのうち殺してもいいからさ、しばらくつきあってよ。
退屈させないから、さ」
「…………好きにしたまえ」
まぁ、しばし茶番に付き合ってやろうじゃないか。
退屈しのぎに、ね。
2005or2006/?/? up
花々(閉鎖) が配布されていた「気狂い10題」から、No4。
殺伐としてるか、駆け引きしてるかだな、うちの黒玄前提救鷹は。
- 2013/09/09 (月) 18:53
- 黒玄前提他カプ