作品
夜明け前にもう一度
不意に立てられた物音に意識が覚醒する。
何かが欠けたような違和感を覚えて、おぼろげな意識の中で隣に手を伸ばすとそこにあったはずの温もりの名残はあれど、玄冬本人はいなかった。
だが、部屋の中には玄冬の気配を感じる。
そうか、後始末にでも行っていて戻ってきたところかな。
つい、あまりの気持ちよさに行為の後、強制的に眠りに引きずり込まれてしまったから、後始末もしてやれずにそのままだったし。
重い瞼を開け、身体を起こし、薄暗い空間に目が慣れたところで玄冬の姿を確認した途端……一気に目が見開いた。
「……ああ、悪い。起こしたか」
「何だい、その格好は」
玄冬が着ていたのは私のマントだ。
それ自体も珍しいことだが、何より驚いたのは、マントの隙間から覗くのが素肌のみだったということ。
まさか、裸体にそのままマントを羽織っているだけなのか。
「ん? ああ、軽く湯を浴びていたんだが、浴室まで行くのに寒かったからちょっと借り……って、おい」
近づいてきた玄冬の腕を引いて、ベッドの上に倒す。
その拍子に捲れたマントの隙間から少しだけ覗く身体の線。
数刻前まで触れていた肌に既に情事の跡は伺えない。
だが、微かに漂った石鹸の香りが理性の紐を容易く解いてしまう。
「……罪作りだなぁ、君は」
「は?」
「そんな格好をしていたら、襲ってくれと言わんばかりじゃないか」
汗ばんだ肌。私の背に縋った腕。腰に絡めていた脚。
潤んだ深い海の色の瞳。悦楽に擦れた声。
玄冬の上に覆い被さって、見下ろす形で眺めると数刻前にしていた行為の際の姿と重なる。
甘えるように私を呼んで、求めてくれた玄冬の姿が。
「な……ちょっと待て!
俺、今さっき後始末してきたばかりだぞ! またやらせる気か!?」
「それは二度手間を掛けさせてすまないね。
ああ、いや。今度は私がしてあげれば済むだけの話か」
「ん……!」
口付けを交わしながら、指を滑らせて玄冬の身体を探っていった。
闇の色のマントと色の白い肌のコントラストが映えて情欲をさらにそそられる。
うん、マントを脱がせず、このままで抱いても悪くないな。
焦らしながら、中心に触れたときにはすっかりそこは熱を含んで硬くなっていた。
率直な反応が嬉しくて、自分の口元が緩むのがわかる。
対する玄冬の方はといえば困ったように眉を顰めてはいたが、制止の声は飛んで来ない。
拒みはしないだろう確信が既にあったが、それでも形だけの確認を取ってみる。
「続けていいね?」
「…………勝手にしろ……っ」
そう言いながらも、私の髪に伸ばされた手は優しく触れてくれる。
そんな君が可愛くてたまらないよ。
さて、今度はどう君を抱こうか。ねぇ、玄冬。
2006/06/10 up
黒玄メールマガジン(PC版)第22回配信分より。
裸マントが書きたかっただけです。チラリズム万歳。
裸Yシャツもいいけど、鷹ならやはりマントだなぁと。
- 2013/09/10 (火) 00:50
- 黒玄