作品
お揃い
「黒鷹、食事ができ……なんだ、この有様は」
扉を開けた先の黒鷹の部屋は、ハッキリ言って足の踏み場もない。
よくここまで部屋がモノで埋まるものだと思う。
「ああ、ありがとう。すぐ行くよ」
「その前にまて。昨日部屋を片付けたと思ったのは、俺の思い違いか?」
何時までたっても片付けやしないから、俺が手伝って片付けをしたのは、確かに昨日のこと。
少なくとも床がまともに見える程度にはしていたはずなのに。
「ん~。そうだね。
おお、そうだ! さっきまで小人さんがいてね、彼らがごそごそっと……」
「黒鷹という名の小人だろう」
「ぐ……」
情け容赦なくバッサリと切り捨てると、言葉に詰まった黒鷹を横目に溜息を吐いた。
黒鷹は片付けが下手だ。
というよりも思ったことをそのまま行動に移すまではいいが、その行動のあとに片付けるという項目が入ってないので、出したものは出しっぱなし。
放っておくと際限なく部屋は散らかる。
そこでせめて、本人が気にすればいいのだが、生憎、黒鷹は寝るスペースさえあれば、いくら部屋が物で埋まっていても気にしないというタイプだから性質が悪い。
「あれほど、出したものはしまってから次のものをだせと言ってるのに……。
何か探していたのか?」
さすがに部屋をひっくり返したかのごとくの様子に、気になって尋ねた。
「まぁね。……ちょうど良かった。玄冬。こっちにおいで」
「? 何だ?」
手招きされて、何とかモノを踏まないように気を付け、黒鷹の傍にいくと
ポトンと頭の上に何か置かれた感触。
それを手にとって見ると黒鷹の帽子によく似たデザインのサイズの小さい帽子。
ああ、これはもしかして。
「覚えているかな? 君が小さい頃、誕生日にねだった帽子だよ。
やっぱりもう入らないのだね」
笑ってそういう黒鷹に、ふと俺も懐かしさを覚えて口元に笑みが浮かんだ。
「覚えてる。
あの頃、俺は黒鷹の帽子がうらやましくて、ねだった記憶があるからな」
確か、自分が『玄冬』で黒鷹とは血の繋がりがないというのを知って間もなくくらいのことだった。
血が繋がってなくても、親子に違いはないよと黒鷹は言ってくれたけど、できるだけ近づいた存在でいたくて。
同じ物を持つことで安心を求めていた。
「今は、もう私と同じ物を被ったり、着たりはしてくれないのかな?」
「……もう、必要ないからな」
血の繋がりはなくても。
誰より近い存在でいてくれるのを知っているから。
同じ物を持たなくても安心してる。
黒鷹は俺の絶対の味方なのだと。
「そうか。
こんなことなら、君が小さい時にペアルックにしておけばよかったねぇ」
「……今はやらないぞ」
「いいよ。これで十分だから」
そして、俺の左腕の腕章の当たりを掴んで顔が近づいて……一瞬だけ唇が掠め取られた。
「……っ」
「さぁ。ご飯にしようか、今日はなんだい?」
何もなかったかのように、笑う。
ああ、こういうところはきっと一生かなわない。
「タンシチュー」
「おお! それは楽しみだ。冷めないうちに頂かなくてはね」
嬉々と部屋を出て行く黒鷹の後姿を眺めて、微かに触れ合った唇に触る。
俺も帽子を戸棚の空いているところに置いて、部屋をでた。
目に見えない絆。
きっとお互い同じ糸で繋がっている。
形にならないお揃いのもの。
2004/06/20 up
2004年父の日企画SS。微妙にラヴ~な黒玄。
父の日に絡んではいませんが、親子関係としてのエピソードを書きたかったのです。玄冬視点。
親子ペアルックとか兄弟ペアルックとかかなり好きです。萌えv
さりげなく(?)黒親子は衣装がペアルックしてますよね!(笑)
あれは絶対黒鷹の趣味です。玄冬は洋服に深いこだわりを持ってないので、きっと鷹が選んでるのを、そのまんま着こなしてるんです!
※↑副読本発売前に書いてました、これ。当たらずとも遠からずだったw
で、そんな玄冬を見て密かに悦に入ってる黒鷹(笑)
- 2013/09/13 (金) 08:33
- 黒玄