作品
邂逅
桜色の髪と目をしたあの子をみた瞬間、不覚にも言葉が出なかった。
どうしてここにいるのだろうかと。
まだその時ではないはずなのに。
よりにもよって玄冬が連れてくるなんて。
玄冬の命を奪うことが出来る、たった一人の存在を。
わからないはずはないだろうに。
私があの子が何かがわかったように、
君だって、そしてあの子だってわかっているはずなのだから。
自分たちの繋がりがどういうもので成り立っているものなのかを。
それでも、つい玄冬が席を立ったときに問いかけた。
「……君は私達が何なのか、わかっているのだろうね?」
「知ってるよ? 玄冬とそのトリ。
……まさか、名前を聞いてそのまま玄冬だって返されるとは思わなかったけどね」
苦笑した相手につられて、私も口元を歪めた。
玄冬のことだから、偽名なんて思いつかなかったんだろう。
あの子は誤魔化したり、嘘をついたりするのが苦手だから。
もっとも、この子を相手に偽名を言ったところで無駄だろうけれど。
「あの人は……白梟は元気かね?」
名前を出した途端、その表情が固まった。
救世主を守護する白の鳥。私の片割れ。
玄冬の母が亡くなって、その後に一度会ったっきり。
口にすることで、もう随分と会っていなかったことに初めて気付いた。
風の噂で彩の国賓預言師になって、救世主を育てているとは聞いていた。
人のことは言えないだろうが、あの人に子育てが勤まるのかと。
どうも、この様子だと微妙そうだな。
「……元気だよ」
「そうか」
僅かな沈黙の後、まるで独り言のような呟きが漏れた。
「物心ついたときから言われた。玄冬を殺しなさいって。そればっかり」
想像がついた。いつまで経ってもあの人はそうなのか。
いなくなった主を思って、どこか壊れてしまったままなのか。
「それで、君は? 殺すのかね?」
「わからない。……でも、今はそんなつもりはないよ」
声の響きは真剣だった。とは言っても、『今』だ。
何時それが変わるかはわからない。その時。
足音が聞こえてきて、二人で顔を見合わせて口をつぐんだ。
「二人で何の話をしてたんだ?」
玄冬が淹れてくれた紅茶のカップを私達の前に置きながら尋ねた。
「いや、何。他愛もないことだよ。そう、例えばスリーサイズの話とか」
「何がスリーサイズだよ。
大変だね、玄冬。養い親がこんなバカそうな人で」
「何! バカとは失礼もいいとこじゃないかね、ちびっこ!!」
「っ! 誰がちびだって!?」
そしらぬ顔でそれまでの話題とはまったく違うことをだした私にこの子も何も知らないふりでのってくれた。
とりあえずわかったよ。
私も君も嘘をつくのが上手いとね。玄冬と違って。
変なところで気が合うようだ。認めたくはないが。
今しばらくは大丈夫か。
それでも、運命の輪が回り始めてしまったね。
守ってみせるよ、玄冬。
そう、今度こそ。奪わせたりなぞしないから。
最後に笑うのは私達だよ。
2004/07/04 up
雪花亭で配布されている
「花帰葬好きさんに22のお題」よりNo1でした。
玄冬と花白、そして黒鷹の初めての出会いの話。
- 2013/09/13 (金) 08:30
- 黒玄