作品
二人でお茶を
「黒鷹。茶はいつものでいいのか?」
「ああ、頼むよ」
食事の後、茶を飲んで一息つくのは私達の日課だ。
だいたいは紅茶。
いつものというのはダージリンのストレート。
まれにそれがコーヒーだったり、ミルクティーになったりはするけど、好んで飲むのはこれだ。
食べ物の好みは異なるのに茶の好みはぴたりと合う。
たまに違うのにしようというときのタイミングまで。
そんなことでも繋がりを感じて、なんとなく嬉しいと私は思うけど。
君の方はどうなんだろうね?
「ほら」
「ああ、有り難う。
……おや? もしかして少し違う茶葉を入れているのかね?」
微かにだけど、いつもよりも甘い香りがする。
「よくわかったな。
この前買い物に行った時に、新しく入った茶だから試しにと少し分けてくれたんだ。
せっかくだから使ってみようと」
「そうなのか。どれどれ」
「……どうだ?」
促されて、口に含んで確かめて見る。
口の中に広がったそれは、控えめだけど存在感があってすっきりした飲み口。
うん、かなり私の好みに合う。
「美味しいよ。玄冬は茶を淹れるのが上手だね」
「やり方さえ覚えれば、誰でもできると思うぞ」
「私が言いたいのはそうじゃないよ。
私の好みにぴたりと合わせられる事を言ってるんだ」
「そりゃあ、何年一緒にいると……あ」
私の言おうとしたことを察知したのだろう。
玄冬の言葉が途切れた。
本当に。そういうところが可愛いね、君は。
「いやぁ、これも愛の成せる技というのかねぇ」
「……好きに言ってろ」
目を背けた玄冬の頬は少し赤くなっていた。
そう、好みだよ。
君が淹れてくれる茶の味も、作ってくれる食事も、
紡ぐ言葉も、しぐさも。
……私しか知らない、夜に見せてくれる表情も。
何もかもがね。
ただ、長年一緒にいるからではないだろう?
私をわかってくれてるのは。
だから、今は二人で茶を。
夜にはまた別の「愛の成せる技」を楽しもう。
2004/07/13 up
2004年7月~12月に開催されていた黒玄祭への出展作です。
コーヒーより紅茶、中国茶、緑茶等を好む私の趣味がモロに反映。
夜の「愛の成せる技」はあえて何とは言いませんが、アレw
- 2013/09/13 (金) 08:35
- 黒玄