作品
名残り雪
「……逝ったんだね」
弱った雪の勢いと身体から何かが失われていく感覚。
数え切れないほど、君を送っているというのに今でも慣れはしない。
虚ろな思いを埋めるように空を見上げ、名残り雪を身体に浴びる。
じきにこの雪は止むだろう。
そして、舞い散るのは春を告げる桜の花びら。
まるであの子を見送るように。
そう、手向けの花の如く。
「玄冬」
幸せだっただろうか?
逝くまでの僅かな時間、私は君を幸せにしてやれただろうか?
私が君と過ごすことで得られた幸せ以上のものを君にあげられただろうか?
勿論応じてくれる声は無い。
徐々に止み始めた雪が哀しかった。
――桜、大好き! 花びら、凄く優しい色してるの!
幾度生まれてきても、桜を好きだという君。
そんなに気になるのだろうか?
……あれは君の命を奪う色だというのに。
「私は……桜よりも雪が好きだよ」
春より、二人で包まって暖を取れる冬が好きだ。
春の暖かさよりも、君の温もりを得ていたい。
ねぇ、玄冬。
きっと君はまた春が来たと喜ぶのだろうけど。
君が傍にいない春なんて、私は暖かいとは思えないんだよ。
「また長い冬の始まりだ」
早く生まれておいで、私の子。
私が凍えてしまう前に、この腕に温もりを。
2005/04/06 up
Web拍手で2005年~2006年1月下旬まで出していたうちの1本から。
黒鷹にとっては名残り雪は、玄冬が生まれた時に舞っている桜の花びらかも知れないなと。
玄冬が生まれた=黒鷹にとって冬の終りで春の始まり。そんな感じ。
- 2013/09/13 (金) 08:47
- 黒玄