作品
春に想う&冬に想う
春に想う
春という季節は嫌いではなかった。
寧ろ箱庭が出来た当初は、降りしきる雪と冷え冷えとした空気に冬はこれだから、などと思っていて、春の訪れが待ち遠しかった。
まだ玄冬と一緒に花見をしていたころも楽しかった。
正体をなくすほどに酒に酔った私を、あの子は困りながらもいつも介抱してくれた。
私があの子の前でしか酔えないのを知っていたから。
「……気付いてしまったのが、いけなかったのかね」
あの子が死んで春が来る。
あの子の好きな桜の花はあの子の命を礎に咲く花なのだ。
その事実は胸が苦しくなる。
だけど玄冬はいつも春に生まれてくるものだから。
その季節になると、つい胸は高鳴る。
春は哀しくて嬉しい。あの子を強く思い出させる季節。
冬に想う
冬は温もりを思い出す。
冷たい空気より、舞い落ちる雪より何より。
抱きしめてくれた黒鷹の体温を思い出す。
――私は好きだよ。冬の澄んだ空気も。雪の降る空の色も、雪そのものも。
冬も雪も好きだと言えない俺を、ただ抱きしめてくれた腕。
きっと俺が口に出来ない分も黒鷹は冬が好きだと、雪が好きだと言ってくれていたのだと、今なら思う。
あの温もりはもう得られない。
――好きだよ。
……冬は黒鷹を思い出す。
2005/06/15&2005/07/29 up
春に想う=「黒鷹好きさんへの10のお題」からNo9。黒鷹視点。
冬に想う=「玄冬好きさんへの10のお題」からNo9。玄冬視点。
どちらのお題も昔ここで配布していたものです。
お題作成時から、自分で書くときは対にしようと決めていたものなので、移転ついでに繋いでみました。
どちらも相手が世界に居ない状態。
- 2013/09/13 (金) 08:56
- 黒玄
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