作品
魔王
「…………静かだな」
「ああ。そろそろ誰もいないかな」
「…………誰……も」
白い雪原の上を2人で歩く。
冷たい空気、静かな世界。
他には誰もいない。
確かここは遥か昔に二人目の君と共に過ごしていた場所。
あの時の君は殺してくれと結局私に告げ。
私は優しい愛し子の願いをきいた。
その約束を守り続けたけど、繰り返し亡骸を抱くことに疲れて、ついに破った。
もう玄冬は死なない。
だけど、世界を愛したあの子はもう居ない。
いや、本当はこの子も世界を愛しているだろう。
だけど、それを認めてしまっては壊れてしまう。
……それはさせない。
「……行こうか。君と違って私は不死ではないからね。
この世界を出ないと飢えで死んでしまう」
何かを考え込んでしまう前にここを去ろう。
「……いっそ、俺の肉を食らえばいい。
どうせ、俺の身体なら直ぐに元通りになる」
だって気付いてしまった。
君がどこかでこの世界に未練を抱いていることを。
「やめておくよ。痛い思いはさせたくない。おいで。
誰の邪魔も入らない、何もない場所に行こう」
「…………ああ」
だから、これ以上歪みに気付いてしまう前に。
さようなら。この子を疎んだ愚かで美しい世界。
終演の幕を閉じよう。ねぇ、愛しい子。
私は二度と約束など交わさないよ。
2005/07/29 up
昔、ここで配布していた「玄冬好きさんへの10のお題」からNo3。
LA VIE EN ROSEのほんのり続き的な何か。
自分の肉を食らえという魔王ってどうなのかと思わなくもないですが、
そこはそれ、玄冬だから、ということで。
- 2013/09/13 (金) 08:58
- 黒玄