作品
思い出話
「……なんだ、この手は」
黒鷹と一緒に村で買い物をしていると、不意に荷物を持っていない方の手を捕まれた。
「うん?
いや、せっかく二人で歩いてるんだから、手ぐらい繋いでも、と思ってね」
「いい年してやめろ。
余ってる手があるなら荷物を持て。ほら」
そもそも荷物持ちの意味もあって二人で来てるのだ。
持っていたうちの荷物を半分黒鷹に差し出すと、渋々といった調子でそれを受け取りぼやく。
「つれないなぁ。
小さい頃、最初に村に連れてきた頃なんて、はぐれまいとしてあんなにぎゅっと手を掴んで離さなかったのに」
「……昔の話だろう」
おぼろげに覚えては、いる。
黒鷹以外の『人』と接することなんて初めてだったし、あの頃は小さくて村まで来た道も良く覚えていなかったから、はぐれてしまったら、と思うと手を離すことが出来なかった。
「そうだけどね。でも可愛かったねぇ。
『置いていかないよな? 俺一人じゃ帰れないぞ』って
初めて見る色んなものに目を奪われながらも、手はしっかり掴んでいたから。
勿論、今でも可愛いけども、あの頃は本当に可愛かっ……」
「それ以上ぼやくと、夕食は野菜尽くしにするぞ」
「ノン!」
聞いているのが恥ずかしくて、ついそう遮ると随分と残念そうな顔になる。
この顔に毎回ほだされる自分もどうなのかと思いながらも、また呟いてしまう自分がいる。
「……村を出たら気が済むまで繋いで構わないから」
幼い頃の思い出話なんて、卑怯だ。
2005/10/07 up
一日一黒玄でやっていたものから。
花帰葬+Pで10のお題配布所(閉鎖)が配布されていた花帰葬+Pで10のお題よりNo2。
村を出たらチャー◯ーグリーンな二人(笑)
- 2013/09/13 (金) 20:57
- 黒玄