作品
「愛してる」と言って。
[Kuroto's Side]
「実際のところね。ちょっと失敗したかなぁと思うときがあるんだ」
「何が?」
食事の後、お茶を飲んで一息ついてるときに、ふと黒鷹がそんなことを言った。
「私の呼ばせ方だ。
最初は『パパ』とか『お父さん』とかいうのが気恥ずかしかったから、つい、『黒鷹』と名前で呼ぶようにさせてしまったのだけど。
今となってはちょっと惜しいことをしたかもなぁと思うんだよ」
「……お前がそうさせたんだろうが」
昔、何かのときに言っていたのだ。
守護する鳥であり、養い親ではあるけどもできるだけ対等な関係でいたいから。
『黒鷹』『お前』と呼ばせるようにしたのだと。
それを今更惜しいことをしたと言われても、俺のせいじゃない。
「ちょっと言ってみてくれないかい?」
「何を?」
「『パパ、愛してる』って。」
「ぐっ……言えるか!」
思わず飲んでいたお茶を吹き出す。
突然何を言い出すのかと思えば!
「言ってくれないのかい?」
「却下だ」
「せっかくの父の日なんだから、サービスくらいしてくれてもいいじゃないか」
「……さっきの食事で十分サービスしたつもりなんだがな……」
父の日だからと。
食卓に野菜は並べずに全て肉料理にした。
バランス的にはちょっとどうかと思いつつ、1日くらいなら喜ばせるのもいいだろうと。
「うーん。じゃあ、『パパ』っていうのは諦めるよ。残念だけど」
「……『っていうのは』と言うからにはもう1つの言葉は諦めるつもりがないんだな?」
「さすがに、お見通しだね」
「何年の付き合いだと思ってる」
「……小さい頃はホントに可愛かったなぁ。今だって可愛いけどね」
するりと席を立った黒鷹が俺のほうに来て、座ったままの俺の頭を胸に抱えた。
黒鷹から伝わる心臓の鼓動の心地良い響きに眼を閉じる。
「言ってくれたまえ。『愛してる』と。」
「お前が言ったらな」
恥ずかしさを、誤魔化すためにそう言ったのに。
「何だ。そんなことでいいのかい?
愛してるよ、玄冬。私の子」
躊躇いなく言葉を返されて、顔が赤くなるのがわかる。
それでも、往生際が悪いと自分でも思いつつ、呟いた。
「……そんなあっさり、軽々という言葉じゃないだろう」
「軽々しく言ってるつもりはないよ。
私が君を愛してるのは本当だから。
ただ、言葉に出しただけだからね」
本当はわかってる。そんなこと。
本心での言葉だから、こんなにも胸の奥が突かれるのだと。
熱い衝動が湧き上がるのだと。
触れたいと願ってしまうのだと。
それでも、口に出すのはやっぱり恥ずかしくて。
抱きしめてくれてる腕をそっと解いて、立ちあがって。
黒鷹の耳元でこっそりと呟いた。
望んでいるだろう言葉を。
眠れぬ夜を覚悟して。
[Kurotaka's Side]
「実際のところね。ちょっと失敗したかなぁと思うときがあるんだ」
「何が?」
食事の後、お茶を飲みながら、そんな話題を出してみた。
「私の呼ばせ方だ。
最初は『パパ』とか『お父さん』とかいうのが気恥ずかしかったから、つい、『黒鷹』と名前で呼ぶようにさせてしまったのだけど。
今となってはちょっと惜しいことをしたかもなぁと思うんだよ」
「……お前がそうさせたんだろうが」
呆れた口調で言う玄冬の言葉はもっともなことだ。
できるだけ対等な関係でいたいから、『黒鷹』『お前』と呼ばせるようにしたのは私の方だ。
ただ、その経緯については君に命を与えた、血の繋がった親たちについて考えたという面もなくはないけれども。
でも、やっぱりちょっとでいいから聞いてみたい。
「ちょっと言ってみてくれないかい?」
「何を?」
「『パパ、愛してる』って。」
「ぐっ……言えるか!」
玄冬がお茶を盛大に吹き出した。
そこまでされると、ちょっと物悲しいものを感じるよ?
「言ってくれないのかい?」
「却下だ」
「せっかくの父の日なんだから、サービスくらいしてくれてもいいじゃないか」
「……さっきの食事で十分サービスしたつもりなんだがな……」
玄冬が溜息交じりでそんな事を言う。
今日の献立は全て肉料理。
この子にしては、相当譲歩してくれた結果だというのはわかっている。
だけどね、言葉で欲しいことだってあるのだよ。
君がそういうのを口にするのは得意ではないとわかってはいるのだけれど。
「うーん。じゃあ、『パパ』っていうのは諦めるよ。残念だけど」
「……『っていうのは』と言うからにはもう1つの言葉は諦めるつもりがないんだな?」
「さすがに、お見通しだね」
「何年の付き合いだと思ってる」
ああ。
本当に君が幼い頃から共に在るのだから、私が君のことがわかっているように君だって私のことをわかってはいるんだよね。
わかっているからこそ欲しい。その言葉が。
「……小さい頃はホントに可愛かったなぁ。今だって可愛いけどね」
席を立って、玄冬の方に行き、その頭をそっと胸に抱いた。
髪を撫でるといい香りが優しく鼻をくすぐる。
「言ってくれたまえ。『愛してる』と。」
「……お前が言ったらな」
「何だ。そんなことでいいのかい?
愛してるよ、玄冬。私の子」
胸に抱いた玄冬の身体が一瞬びくりと硬直した。
何度も繰り返した言葉なのに、そんな反応を返す君が可愛い。
どんな顔をしているのかを見られないのが残念だ。
「……そんなあっさり、軽々という言葉じゃないだろう」
「軽々しく言ってるつもりはないよ。
私が君を愛してるのは本当だから。
ただ、言葉に出しただけだからね」
わかっているはずだろう?
たまには言うだけでなく聞きたい言葉だと。
知っている。
どれだけ君が私を想ってくれているのかは。
それでも、確認をしたくなるのだよ。
贅沢かも知れないがね。
玄冬が軽く息をついて、私の腕を解き、立ち上がる。
赤く染まった顔を私に寄せて、耳元で小さく言葉を呟いた。
言葉が終わるや否や、玄冬を抱きしめる。
玄冬の手も控えめに私の身体に回された。
今日は疲れ果てて動けなくなるまで君を抱こう。
そして、飽きるほどにその身に呟きを落とそう。
『愛してる』と。
2004/06/20&2005/01/23 up
「惑楽」(お題配布終了)で配布されていた
「萌えフレーズ100題」よりNo100。
2004年父の日企画で書いたうちの一つ(玄冬視点)&黒玄メールマガジン(携帯版)第2回配信分より。
父の日に絡めた砂吐くようなラヴラヴをコンセプトにしたら、
↑このコンセプトからして父の日らしくない、というのはわかってますw
全然エロではなくなったので、結局表に置いてフリー配布してました。
……今となっては愛してる、がまったく珍しくなくなった、うちの黒親子(笑)
- 2013/09/14 (土) 13:09
- 黒玄