作品
君の声しかいらない
「くにょたか?」
君がそう、たどたどしい言葉で初めて私の名前を呼んだ瞬間を今でも覚えている。
とても可愛くて、愛しくて。
あれから、数え切れないほど名前を呼ばれた。
「黒鷹」
部屋を片付けろ、肉だけを食うな、など苦言を言う時の少し怒りを秘めた声。
「……黒鷹」
雪が好きだよ、などと言った時の困ったような響きを滲ませた声。
「黒鷹……」
大抵は微笑みと一緒にある、安らぐようなほっとした雰囲気のわかる声。
「……黒……鷹……っ」
縋るように求めてくれる、私が君を抱いている時の声。
どんな呼び方だって、勿論好きなのだけど。
でも、知らないだろう?
私がどう呼ばれる時が一番好きか。
「ん……黒鷹…………おは……よう」
一緒に眠った朝の霞んだ意識の中で私を呼ぶ声。
眠りから覚めきってない時に甘えるように私を呼ぶ声がたまらなく好きだ。
無防備な姿を見せていてくれるのと、今日も君が傍にいる、と嬉しくなるから。
「おはよう、玄冬。……起きられるかい?」
「ん……」
だから、そうやって返して頭を撫でる。
いつもなら、私を威勢良く起こすのに一緒に眠った朝は夜の名残のせいか、甘えてくれる。
微笑ましくて、可愛くて。
君の声だけで私はこんなに満たされる。
他の声などいらないよ。
2005/03/08 up ※サイトに上げたのは2005/04/29
元は一日一黒玄で書いていた分。
猛毒マリアが配布されている「恋する七題」から。
このお題はこれが書きたいために手をつけたようなものでした。
- 2013/09/19 (木) 08:16
- 黒玄