作品
月明かりの下で
夜中に何とはなしに目が覚めると、枕元にカーテンの隙間から零れた一筋の光。
それに誘われるように起きて、カーテンを開けると見事な満月だった。
柔らかい光に包まれて、浮かびあがっている月は見惚れるほどに綺麗で、その存在感にしばしの間、くぎ付けになる。
ふと、耳を澄ますと静かな空間の中、頭上から微かに音がした。
鳥でも宿り木代わりにして、屋根に止まっているのかと思ったが、グラスを合わせるような音にもしや、と庭に出て屋根を見上げると、黒鷹が酒の瓶を片手に月見酒と洒落こんでいた。
「……やっぱりお前か」
「おや、起こしてしまったかな、すまないね」
「いや、お前のせいで起きたわけじゃない。
また、お前出来たばかりの果実酒に手を出したな」
手にしている瓶は良く見るとまだ開けていなかった筈のもの。
飲める段階にはなっていたけど、あと数日は熟成させておけと言ってあったのに。
「まぁ、固いことは言わない。そんな薄着でいると冷えるよ?」
「風邪をひくわけじゃないから平気だ」
「やれやれ。仕方のない子だね」
黒鷹が鳥の姿になって降りてきたかと思うと、すぐに人型になって俺を抱きすくめた。
「ほら。これなら冷えないだろう?」
「冷えていたのはお前じゃないのか?」
顔に当たる黒鷹の耳が冷たい。
「じゃあ二人でもっと温かくなることをしようか」
微かな笑いと一緒に落とされた呟きに籠められた意味は、深く考えずともわかる。
抱きしめられた時に言い出しそうな気もしていた。
「……部屋の中でならな」
だから、拒みはせずにそう促すと、強く抱きしめられた。
月明かりが照らす下で。
2005/01/14 up
元は一日一黒玄で書いていたもの。
恋愛に関するいくつかのお題が配布されている、「普通にタイトルに使えそうなお題」からNo9。
5の倍数でお題消化とあったので、確か20作書いて5作だけサイトに通常UPしていたうちの1作。
- 2013/09/19 (木) 00:16
- 黒玄