作品
愛ある世界
[Kurotaka's Side]
「どうしても、行くのかい」
「ああ」
「……行かせたくない、と言ったら?」
「行かせてくれるだろう? ……それが俺の望みならば」
「…………どうしてこういうところだけ似てしまったかね」
溜息をつく。
一片の疑いさえ持たない真っ直ぐな眼差し。
それに私が背けないことを知っている君。
「世界は君に感謝なぞしないよ。
君がそうやって自らを犠牲にしたところで」
「別に感謝されたいわけじゃない。
俺はそれでもこの世界が好きだから。
……だって、この世界で俺はお前に逢えた」
「玄冬」
「育ててくれた。愛してくれた。
……世界に優しいものが沢山あると教えてくれた」
全てを受け入れようとする優しい微笑み。
「誰もがそんな風に愛を抱えて生きている。
だから、終わらせたくなんかない」
「私は? 君を失った私にはどうしろと?」
「失くすわけじゃないだろう。わかってるはずだ。
俺はまた生まれてくる。
……お前はまた育ててくれるだろう? 愛してくれるだろう?
お前に逢えるのがわかってるから、俺は死ぬのも怖くない」
「親不孝者だね。困った子だ。……でも、いいよ。
親に我が儘をいうのは子どもの特権だ。……叶えてあげるよ」
約束を守ろう。
君の愛した世界で君がまた生まれてくるのを待つよ。
愛して、育て、また逢うために。
[Kuroto's Side]
「どうしても、行くのかい」
「ああ」
失望の混じった声に少し胸が痛い。
「……行かせたくない、と言ったら?」
「行かせてくれるだろう? ……それが俺の望みならば」
それでも。
譲れないことがある。
そして、こういうときの俺が融通のきかないだろうことを、お前は良く知っているはずだろう?
だって、お前が俺を育ててくれたのだから。
「…………どうしてこういうところだけ似てしまったかね」
苦笑と溜息を零しながら黒鷹が呟く。
そう、似てるだろう?
そんなところで感じる絆が嬉しいと言ったら、お前は呆れるのだろうか。
「世界は君に感謝なぞしないよ。
君がそうやって自らを犠牲にしたところで」
「別に感謝されたいわけじゃない。
俺はそれでもこの世界が好きだから。
……だって、この世界で俺はお前に逢えた」
「玄冬」
「育ててくれた。愛してくれた。
……世界に優しいものが沢山あると教えてくれた」
お前が愛してくれたから。
俺はそれを誇りに逝ける。
誰も何も疎う事も呪う事もなく。
……優しいのはお前だ。
俺は今だって優しくない。
お前だったら、願いを聞いてくれると。
お前の想いは置き去りにしてこんな事を言っているのだから。
「誰もがそんな風に愛を抱えて生きている。
だから、終わらせたくなんかない」
「私は? 君を失った私にはどうしろと?」
「失くすわけじゃないだろう。わかってるはずだ。
俺はまた生まれてくる。
……お前はまた育ててくれるだろう? 愛してくれるだろう?
お前に逢えるのがわかってるから、俺は死ぬのも怖くない」
何があってもお前は俺から離れないだろう?
俺はまたお前に愛されるために生まれてくるのだから。
「親不孝者だね。困った子だ。……でも、いいよ。
親に我が儘をいうのは子どもの特権だ。……叶えてあげるよ」
有り難う、と言い掛けた口は手で遮られて。
一言「待っているから」と言われたそれにただこくりと頷いた。
……また、生まれてくるから。
お前の傍に。
2005/09/26&2005/10/31 up
元は一日一黒玄で書いたもの。(黒鷹視点)
玄冬視点は黒玄メールマガジン(携帯版)第15回&第16回合併号配信分から。
China Love(閉鎖?)で配布されていた、「微エロ妄想さんに25のお題」、No2より。
微エロどころか、エロ成分が欠片もないのはスルーでw
- 2013/09/22 (日) 01:30
- 黒玄