作品
想いでのキス
――キスは愛しいものへの想いの証だよ。
俺が小さい頃から、黒鷹はそういって何度も繰り返し口付けてくれた。
額や頬に。
眠る前とか、起きた時とか。
少し大きくなるとそれが恥ずかしくて、拒んだ時期もあったけど、黒鷹はお構いなしにキスをして。
……唇同士で初めてキスを交わしたのは、十五の時。
あれからは、額や頬、唇だけでなく、身体中の全ての場所といっても良い位に、数え切れないほどキスをされたし、俺からもキスをしたけど、やはり最初に唇を合わせたキスは忘れられない。
そっと自分の指で唇を辿って見る。
指で触れるのと、黒鷹の唇の柔らかい感触とは全然違う。
「……何をしてるんだね?」
「え、あ…………」
不意にかけられた声に顔を上げると何時の間に来ていたのか、黒鷹がいた。
「あ、いや何でもな……」
「そんな誘うような目をしておいて?」
「え……ちょ……っ……くろっ…………ん……!」
指をどけられて、唇が重なる。
……割ってはいるかと思った舌は何もせずに、ただ優しく唇を重ねるだけ。
まるで一番最初に交わしたキスと同じように。
「昔のことでも思い出していたかい?」
「……そういうことは察しても黙っていろ」
図星を言い当てられて、ついそんなことを言っても、黒鷹はただ笑うだけだった。
優しい思い出に浸れるのは、黒鷹のおかげだけど、それを言うのは癪だ。
……でも、きっとそれさえ黒鷹はわかっているんだろう。
本当にこいつには敵わない。
――唇同士のキスはただ一人の大切な相手だけに許された行為だよ。
今までも、これからも。唇で交わすキスはたった一人と。
2005/04/29 up
恋愛に関するいくつかのお題が配布されている、「キスのお題」からNo17。
- 2013/09/25 (水) 01:37
- 黒玄