作品
さよならをするために
それは儀式。別れと始まりのための。
***
「……また俺はお前を置いていくんだな」
遥か昔に交わした約束。
再び誓約の時が近づいている。
「……そうだね。また君は私を置いていく」
「恨んでいるか?」
「恨めるものなら、恨みたいよ」
「すまない」
「約束を反故にする気もないのに、謝らないでくれないか」
首筋に顔を埋めて、唇が当てられる感触に僅かに身体が疼く。
引き出される反応は、全てが黒鷹の手によって生まれ出たものだ。
幾度生まれてきても、こうやって触れるのは黒鷹だけだから。
「覚悟しなさい」
触れる熱とは裏腹に冷静な声が落ちる。
「隅々まで触れる。余さずに。……加減できないよ」
「ああ」
もとより拒むつもりも無い。
また長い時、別れてしまう前に、覚えておくために。
表情を消した黄金の目に、顔は見ないからという意思表示で目を閉じた。
伝わった笑う気配はどこか寂しそうで……それでも言えるわけも無い。
黒鷹の本当に望む言葉を。
だから、せめて交わす。
別れの前に。長いときを耐えうるために。
***
それは儀式。全てを忘れないための。
2005/03/29 up
元は一日一黒玄で書いていたもの。
恋愛に関するいくつかのお題が配布されている、「普通にタイトルに使えそうなお題」からNo43。
5の倍数でお題消化とあったので、確か20作書いて5作だけサイトに通常UPしていたうちの1作。
玄冬が過去の記憶持ちヴァージョン。
- 2013/09/26 (木) 02:25
- 黒玄