作品
泡沫
君の本当の望みを知っていた。
私には叶えられない望みを。
***
埋めるための穴を一人掘りながら、あの子の最期の顔を想う。
安心したように微笑んだ優しい顔を。ねぇ、最期に何を想ったんだい?
***
「俺を殺し続けてくれ」
「何を言うんだい?」
***
「このまま首を絞めても、君は死ねない」
「そうだな。お前には俺は殺せない」
***
誰より傍にいることは出来た。でも、君を殺すことは出来なかった。
白の子は傍に居たいと願った。殺したくないとも願った。
両方とも叶わなかった。
***
玄冬を抱き上げ、穴の中に埋める。
あの子の魂はもうこの中にはない。
救世主の手によって、あっけなく消え失せてしまった。
***
「……微笑った顔なんて反則だよ」
「怒ることさえできないじゃないか」
***
「有り難う」
「……いらないよ、そんな言葉」
***
土を被せていき、玄冬の身体が見えなくなっていく。
もういない。わかっていても、顔を埋めるのは最後にした。
***
きっとあの家に帰ったら、まだ君の残り香を感じられるだろう。
今にも、名前を呼んでくれそうな空気が漂っているだろう。
***
やがて、止んだ雪の代わりに桜の花びらが舞い散るね。
君の好きだったあの花が。
名残を惜しむように顔を一通り撫でて残りの土を被せた。
今この手には、あの子の形見の眼鏡だけがある。
「……お休み、玄冬」
次にまた会う時まで、これは預かっておくよ。
2005/04/01 up
雪花亭で配布されている
「花帰葬好きさんに22のお題」よりNo16。
春の日差しのように A-前編 A-後編 B-前編 B-後編の微妙に続きっぽい感覚で書いた話。
※読まずとも差し支えないです。
玄冬を弔うのは毎回鷹なんだろうなと思うと切ない。
- 2013/09/27 (金) 00:08
- 黒玄