作品
静かに
青灰色の空から、雪が地上へと舞い降りていくのを、塔の窓からぼんやりと眺めていた。
シーツだけを纏った肌を外気が容赦なく冷やしていくけど、不思議とその場を離れる気にはならなかった。
空の色は優しいけど、降る雪はどこまでも残酷に命を奪っているのだろう。
……今、この瞬間も。
それを思うと、胸が軋む。
誰も死なせたくなんてなかったのに。
「冷えるよ、玄冬」
「ん……っ……黒鷹」
いつ来たのか、黒鷹の声に我に返る。
僅かな間にシーツを取り払われたかと思うと、黒鷹は後ろから俺を抱いて、一緒にシーツに包まった形になった。
背中から伝わる温かい肌の感触。
冷えた身体に少しずつ、黒鷹の体温が染み渡っていく。
「綺麗だね、白い世界は」
「……同意はできない」
滅びを呼ぶこれを綺麗と言ってしまうのは、抵抗がある。
「私は好きだよ。
雪も、雪の降る空も、雪の積もる地も。
なによりこの静かな空間がね」
耳元で囁く声はどこまでも優しい。
「ただ、雪の降る音を聞いて、こうしていると、世界に二人しかいないような気分になるだろう?」
「……もしかしたら、もう本当に二人だけかも知れないがな」
また、胸が軋む。
それを選んだのは……黒鷹の手を取ったのは俺なのに。
「考えるんじゃないよ」
「え……っ!? ……あ!」
抱きしめた手がそっと肌を撫でていく。
それは少し前の行為を思い起こさせた。
――玄冬。
名前を呼ぶ声は温かくて優しくて。
――……玄冬。
触れる手は熱かった。肌の上を滑るそれから感じたのは愛しさ。
――……玄……冬……っ
気遣うように中で動いていたのが感じられた。
記憶が戻ってなくても、なんとなくわかる。
幾度も幾度もそうやって抱き合っていたのだと。
お互いの存在を確かめるように。
睦みあい、熱を開放させて。
――君を、死なせたくない
……きっと、その言葉を聞いたのはあの時が初めてじゃないんだろう。
心に沁みたのは、それが黒鷹にとって真実の言葉だから。
――私は何があっても最後まで君と共に居る
だから、選んだんだ。
世界ではなく。
俺を必要としてくれる、黒鷹を。
俺も何があっても最後まで黒鷹と共に居ようと。
***
どこまでも静かな白い世界。
確かなのは、今感じているお互いの温もり。
冷たい白い雪。
熱い白い放熱。
優しい青灰色の空。
深い愛しさを秘めた金の瞳。
それが全て。
止まない雪を背にまた抱き合う。
世界の終焉のその時まで。
2004/09/13 up
惑楽(閉鎖) が配布されていた「萌えフレーズ100題」、No9より。
その前は裏サイトでの黒玄お題under ver.の「ゆきの灯り」としてあげていたもの。
黒玄お題表裏統一により、タイトル変更して持ってきたものです。
- 2013/09/27 (金) 01:54
- 黒玄