作品
48手
「黒鷹、用意でき……あ……」
夕食が出来たから、部屋で本を読んでいると言っていた黒鷹を呼びに来た。
が、黒鷹は部屋のソファに横になったまま、本を顔の上に載せたままで寝ている。
どうも癖なのか、黒鷹は睡魔に襲われるぎりぎりまで本を読んでいることが多い。
一緒に寝なかった翌朝、起こしにいくとかなりの確率で枕元に本が投げ出されていたり、本を持ったままで寝ていたり、ちゃっかりと本が枕になっていたり、そうでなければ、今回のように顔に載せた状態で寝ているのだ。
「まったく……おい、黒鷹。起き……え……?」
何気なく、黒鷹の顔に載せられていた本を手に取って、ちらりと挿絵らしきものに視線がいった途端……顔が紅潮していくのがわかった。
これは……! ったく、こいつは!
「ん……あぁ、眠ってしまっていたか、おはよう。玄……った!」
目が覚めた黒鷹の頭をそのまま持っていた本で叩く。
角でなかっただけありがたく思え。
「何てことをするんだい!
本は粗末に扱ってはいけないと言ってるじゃないか!」
「本を枕にしたり、床に積み上げて埃被せてるようなヤツに言われる筋合いはない!
なんだ、この本は!」
「本? ああ! 素晴らしいだろう?
愛の営みの方法、『48手』というやつだ!
いやあ、別の本を探していたら偶然見つけてね。
せっかくだから実践する為に、中身を確認していて……」
「待て。その実践っていうのは俺で試すつもりか?」
「他にいたら問題じゃないか」
「あ……いや、それは……」
もっともな意見に一瞬怯んだところを、腕を掴まれてそのままソファに引きこまれた。
「……っおい! 黒鷹」
「愛しいものと愛を確かめる方法を追求したくなるのは当然だろう?
感じさせてあげたいし、また私だって感じたいと思うのだから。
それとも? 君はそうは思っていないということかね?」
「っ! そんなわけないだ……あ……」
つい口走った言葉に後悔しても遅かった。
黒鷹の顔が満面の笑みを湛えている。
「ふふふ。きっと君はそう言ってくれると思っていたよ。
じゃあ、早速……」
襟元に伸ばされた手を慌てて止める。
「ちょっと待て! お前は俺が折角つくった食事を無駄にする気か!
後にしろ、後に!」
「ほう? 後ならいいんだね?」
「…………っ……」
立て続けにやってしまった、自分の発言の迂闊さが心底恨めしい。
「よしよし、玄冬は良い子だね。
いや、こういう場合はいけない子というべきかな?」
「……知るかっ」
「いやぁ、じゃあ早速夕食で精をつけて、食後は軽い運動に励むとしようか」
「軽くなんかならないくせに……っ」
本の絵が垣間見えたときに、どう考えても無茶があるだろうという姿勢をいくつか思いだし、眩暈を感じた。
本気であれらを実践するつもりだろうか、こいつは。
「まぁまぁ。何も全部一気に試すわけじゃないんだから。
安心し給え! 一晩に四種類ほど試せば、二週間足らずで制覇が可能なのだから!」
「馬鹿! そんなの身体がもつか!」
「あっはっは。限界に挑戦してみるというのも、一興だと思わないかね?」
「そういうのは一人でやれ!」
「無茶をいうなぁ」
「……! どっちが……っ!」
当分、寝不足かも知れない日々を思って、泣きたくなったのはいうまでもない。
2004/07/31 up
「惑楽」(お題配布終了)で配布されていた
「萌えフレーズ100題」よりNo57。
ちょうどこれを書いた時期に黒玄で48手という企画やり始めた時期だったんですよね(笑)
一晩四種類を連日で実行、はいくらなんでも無謀だとは書いた本人も思ったw
- 2013/09/29 (日) 03:14
- 黒玄