作品
もう、どれだけの時間が経ちましたか。(黒玄前提黒白黒)
あれからどれほど経っているだろう。
――これが済んで、次に俺が生まれたら、必ず殺してくれ。
愛しい子の口から告げられた残酷な言葉。
もう何度目かもわからない玄冬をまた失った。
「……もう、どれだけの時間が経ったでしょうね」
傍らの白梟が呟くように言った。
似た様なことを考えていたらしい。
「忘れたね」
「……開放して構いませんよ」
「うん?」
「貴方なら、このシステムから、箱庭を開放させる方法を知っているのでしょう?」
「……白梟?」
「……戻ってこられるかも知れない、と思うことにも私も疲れたんです」
「それ……は」
まさか。
この人がそんなことを言い出すとは。
「わかっているのかい? それは……」
「わかっていますよ。
システムの停止は私たち鳥をここに留まらせることは出来ない」
長く共にあったなかで、一番穏やかな微笑み。
ああ、貴方がそんな風に笑ったのは、あの方がいたとき以来かもしれないね。
まだ出来たばかりの箱庭であの方と貴方と私の三人で。
雪の降る空を見たときの、懐かしい温かさだ。
***
世界の中枢。
貧弱な作りの一本のコード。
指に絡めて、後ろを振り返る。
「……本当にいいんだね?」
「ええ」
「白梟」
「なんです?」
「……私はあの子の元にいけると思うかい?」
あの子の魂のところに行けるだろうか。
共に在る事が出来るだろうか。
「行くために絶つのでしょう?」
「……そうだね」
私たちはこれで消える。
そして、システムの停止により、君はもうこの世界に生まれない。
私は君と同じところに行けるだろうか?
「もっと、早くにこうするべきだったのかも知れないね。
……すまなかった」
「謝る必要はありません。
想いを絶てなかったのは私とて同じことです」
「…………さようなら」
「ええ。……さようなら」
力を篭めて紐を断ち切る。
優しい光溢れる中で、きっと最後はお互いに穏やかな顔をしていた。
ねぇ、玄冬。君はそこにいるのかい?
これからはずっとずっと一緒だよ……。
2005/04/20 up
Abandonで配布されている「死に関する10のお題」より。
黒玄前提黒白黒……かな?
繰り返した春告げループの果てのシステム停止ネタ。
- 2013/09/30 (月) 00:06
- 黒玄前提他カプ