作品
ふたりの夜
「ねぇ、今日は一緒に寝てくれるの?」
「ああ、今夜はここにいるよ」
「えへへ……」
「おっと。……君も重くなったなぁ」
ぽんと全身で抱きついてきた玄冬を受け止める。
本当はもっと重くなった君だって知っているけど。
私よりも大きくなった君だって何人もいた。
……それなのに。
「重い?」
「大丈夫だよ。そのまま眠っても構わないさ。
こうしているのは気持ちいいからね」
――重いかい?
――平気だ。……こうしているのは気持ちいいから。
何度も私の腕の下で。
求める私を受け止めてくれた君は抱きしめていてくれた。
伝わる体温にお互いただ笑って。
あれほど幸せを感じた時間は他にない。
「うん、気持ちいい。……ね、黒鷹」
「うん?」
「……ううん、何でもないや。おやすみなさい」
「ああ。……おやすみ」
ほんの一瞬。だけど確かに。
大人びいた苦笑が垣間見えた。
……知っているのだろうか。
君は自分の運命を。
明日の夜はもう二人で過ごせないということを。
小さく聞こえ始めた寝息にそっと預けられた頭をなでた。
「……また私は一人で過ごさなくてはならないな」
繰り返される夜を。
傍に温もりのない日々を。
せめてぎりぎりまで感じていようと、起こさないように腕を回して抱いた。
笑っているよ。
こうして君の温もりを感じていられるうちは。
……だから、安心してお休み。
どうか、良い夢を見られますように。
2005/07/04 up
Kfir(閉鎖) が配布されていた「やさしい恋・10題」、No2。
- 2013/10/04 (金) 00:29
- 黒玄