作品
声を挙げたら赤い景色が見える
「苦しませるなと言った筈だ、私は……!」
黒鷹の声が聞こえる。
怒りの感情を露にした声が。
「それを聞くと言った覚えもないよ、俺は。
いいんじゃない?
殺してくれって望んだのはそもそも玄冬でしょ?
どうして、自分で望んだ相手に楽にしてやる必要があるの?
……苦しめばいい。思い知らせてやればいい。
一人アンタを残していくことを繰り返す報いを思い知らせてやればいい」
冷淡に聞こえる中に哀しみが含まれてるのは、きっと気のせいじゃない。
だけど、激昂した黒鷹はそれに気づいて無いのか、剣を掲げた相手に掴みかかる。
黒鷹は俺の為になら、人を殺すことさえ躊躇わない。
そんな部分を知ってはいるけれど、それでも黒鷹が人を傷つけるところを見たくなかった。
「止め……ろ……黒……た…………っ!」
呼んだ声はまともな言葉にならなかった。
胸が苦しい。
視界が赤くなったのは、吐いた血の所為だろう。
俺の声に反応して黒鷹が傍に寄り、抱きかかえてくれた。
見えなくても、伝わる体温と鼓動が黒鷹だということを告げている。
黒鷹の温もりが痛みを和らげる。
髪を撫でた指の感触が伝わった。
「……苦しいかい」
「……それはお前、だろう」
「玄冬」
「そいつの……言うとおり……だ。
これは……俺が受けなければ、ならない報い……だ」
「……そんなものはないよ。君の願いを聞いたのは私だ」
額に落ちる口付け。
十分贅沢だ。
この腕に抱かれたままで死ねるなら。
育てた親に殺してくれと、地獄に堕ちるような言葉を吐いたのに。
この腕の中は楽園への道だ。
2005/04/16 up
元は一日一黒玄で書いたもの。
Abandonで配布されている「死に関する10のお題」より。
この時期、某SHのアルバム聴きまくっていたので、啓発ネタ多かったのです。
- 2013/10/04 (金) 02:17
- 黒玄