作品
ずっとこのままで……
時が止まってしまえばいい、と最近よく思う。
命の器が刻一刻と満ちていくのを感じるたびに不安になる。
かつて、一度。
血に染められた『玄冬』を私は知っているから。
また、あの時のように自ら世界の為に死を選ぶのではないかと、恐れている。
いや、恐れとしてはあの時以上だろうか。
この手で育ててしまっているからか、君を失うことは以前より私に苦痛を齎してしまうように思う。
不思議なものだよ、魂が本来備えてる性質とでもいうのかね。
君はどこまでも優しい。
この世界は君を疎んでいるのに、君の方はこの世界を愛している。
報われもしないのに。
そんな不安を抱えたままで眠りに落ちると、大抵夜中に目が覚める。
紅く染められた私の子。鮮血の夢。
夢だと分かっていながら、つい玄冬を確かめにいく。
呼吸を、体温を、吐息を確認して。
生きてることを確かめたいから、触れたくなる。感じたくなる。
眠っていたところを起こされて、強引に抱かれて。
良い気分はしないだろうに。
それでも君は何も言わない。
ただ黙って私に身を預けてくれるだけ。
どこまでも優しい子だね。
きっと私の弱さは分かってしまっているのだろう。
情けない親だと思うよ。
迫り来る時から逃げてしまいたいと思う。
ただ、このまま何も考えずに、静かに繋がっていられるのなら、どれほどいいだろうかと。
「……ろ……鷹……」
「……うん?」
「手……」
「ああ」
「ん……っ」
両の手を玄冬と繋いで、そっと身体を揺らす。
熱く繋がった部分に感じる脈動がたまらなく愛しい。
微かに抑えた声も。
熱っぽく潤んだ目も。
何よりこの温もりが。
失いたくない、と思う。
ああ、本当にね。
「ずっと……」
「ん……っ……?」
「このままでいられたらいいのだけどね」
玄冬の目が一瞬、見開かれ……すぐに苦笑の色を浮かべる。
そっと繋がれた手に力が篭められたけど。
君は肯定の言葉を口にしてはくれないんだね。
だから、私はいつまで経っても不安なのだよ。
滅びの兆候が出始めた世界で君は何を思っている?
不安を掻き消すように、律動を強めて。
その都度、玄冬が切なく喘ぐ声に心を傾けて、熱を解き放した。
「黒鷹」
「なんだね?」
「……有り難う」
「……何についての言葉だい?」
「……なんだろうな」
玄冬が私の髪を指に絡めて、どこか哀しそうに呟く。
止めなさい。
私が欲しいのは感謝の言葉でも、そんな顔をする君でもない。
ああ、だから。
本当に思うのだよ。
繋がって、君以外のことを考えられない瞬間に。
ずっとこのままで、いられたら。と。
訪れる瞬間から、眼を背けている。
その弱さを自覚しながらも、ね。
2004/09/06 up
「惑楽」(お題配布終了)で配布されていた
「萌えフレーズ100題」よりNo24。
- 2013/10/08 (火) 01:55
- 黒玄