作品
ずっと一緒にいたい
「ああ、今日は晴れてるな。星がよく見える」
「ん? おお、本当だね。満天の星空とは言ったものだ。
七夕の日にふさわしいじゃないか」
「そうか、そういえば……」
すっかりと忘れていたが、黒鷹の言葉で思い出した。
小さい頃は笹の葉に願い事をかいた短冊を飾ったりとかもしていたのだが、いつからだったか、それはやらなくなっていた。
「綺麗だな、星灯り」
「部屋の明かりを消そうか。これだけ星が出てるならある程度見えるだろう」
「ああ」
そして、明かりを消した部屋の中に、優しい星の光が満ちていく。
しばらく二人で星を眺めていると、ふと黒鷹が口を開いた。
「これだけ晴れたなら、今ごろ彦星と織姫は無事に出会えて、一夜の逢瀬を楽しんでいるのだろうね」
「そうだな。……一年離れていて、会えてもたった一日、か」
本当はずっと一緒にいたいだろうに。
離れている一年間、どんな思いで彼らはいるのだろうか。
「そう、たった一日。
だからこそ、その一日は何物にも代え難いのだよ」
「……ずっと一緒にいられたらいいのにな」
「そう思うかね」
「俺は今、ずっと黒鷹と一緒にいられるのが嬉しいから。
……黒……鷹?」
どうしてだろうか。
黒鷹の顔が一瞬だけ泣きそうに見えたのは。
「……そうだね、私も玄冬とずっと一緒にいたいね」
抱きしめられて、口付けられて。
無言の誘いに、断る理由も無く。
ただ、黒鷹のなすがままに任せた。
星灯りだけが部屋を照らす。
外で抱き合ってるようだと言ったら、笑われた。
じゃあ、次は本当に外に行こうかと。
さっきのあの表情は気のせいだったと思うことにした。
***
――ずっと一緒にいられたらいいのにな
眠ってしまった玄冬の髪をそっと撫でて、さっきの言葉を思い出す。
ああ、本当にね。ずっとずっと。
君と一緒にいられたらいいのだけど。
それは叶わぬ願いと知っているから。
だから、こんなにも。
今が何物にも代え難い。
君と居られるこの瞬間が。
君と居られる今があるから、またこうして過ごせる日がいずれ来ると思うから。
だから、耐えられる。
永い君の居ない時を過ごすことを。
「私たちも彼らに少し似ているのだと……君は知らないのだろうね」
こうして、今の君と一緒に星空を眺めることができるのは、あと何回あるのだろう?
「すまない、ね」
玄冬が起きている時には決して言えない、その言葉。
床にぽたりと落ちた一滴の涙。
星だけがそれを知っている。
2004/07/11 up
「惑楽」(お題配布終了)で配布されていた
「萌えフレーズ100題」よりNo52。
四日遅れになった七夕話。
- 2013/10/08 (火) 02:30
- 黒玄