作品
死にたければ死ねばいい(黒玄前提救鷹)
「殺してよ」
「誰が」
「貴方が俺を」
「冗談だろう」
「本気だよ」
とうに冷たくなった小さな身体。
彼はずっと玄冬を抱えて離さない。
その腕の中で殺して、ずっと抱きしめて。
「……いい加減、その子を離してくれないか」
「イヤ。離すんだったら、俺を殺して引き剥がしなよ」
「本気で怒るよ」
――嫌……行かないで。ねぇ、黒鷹。傍にいて。今日だけでいいから。
昨夜寝る前。
何かを感じ取っていたのか、滅多に我が儘を言わないあの子が泣きそうな目で私の袖にしがみ付いて。
なのに、我が儘を言ってごめんねと。
玄冬は謝りながら眠りについた。
謝りたいのは私の方なのに。
抱きしめても抱きしめても、足りないほどに愛しい私の子。
本当は手離したくないのを息を引き取るときだけ手離して。
……他の誰にも触れさせたくないのに。
殊に彼には。
「玄冬を返しなさい」
「イヤ」
「……私の子だ……っ……!」
「……っ」
白い首筋に手を伸ばして、力を籠める。
顔を歪め、玄冬を抱いてる腕に力が入らなくなってるだろうところを見計らって、玄冬を引き剥がして自分の腕に抱きすくめた。
激しく咳をし、咽る救世主を一歩退いて眺める。
恨みがましい表情は泣きそうにも見える。
「……ど……して…………あのまま……殺して……くれな……かったの、さ」
「甘えるんじゃないよ」
首を絞めていた間のほんの一瞬、笑んだ表情に私が気付かなかったわけがない。
誰が、冥府への旅に手など貸してやるものか。
自分の存在を儚んで、自分で首を切ろうと傷つけ、それでも死ねなかった子がいるのに。
「死にたければ、一人で死ねばいい」
手伝ってやるほど、優しくはない。
苦しんで生きて、苦しんで死にたまえよ。
せめてものあの子への手向けにね。
2005/07/13 up
花々(閉鎖) が配布されていた「あっけない死10題」からNo8。
ホント私の書く黒玄前提救鷹は優しくない。
- 2013/10/10 (木) 01:02
- 黒玄前提他カプ