作品
眼に見えるただれた悪夢
「何を……している……!」
目の前の光景を信じたくはなかった。
命の器がまた限界まで満ちて。
『役目』を果たしただろう救世主が、何時までも部屋に戻らないからおかしいとは思っていた。
とうに事切れた玄冬の身体のあちこちを切り刻んで。
救世主は興味深そうに刻んだ肉片を眺めている。
指先だけでなく、口元にまでついた血が何を示しているか。
……考えたくなんてなかった。
「一緒なのかな、と思ってさ」
「……何、が」
「身体。この子、俺以外では殺せないんでしょ?
だから、何か身体のつくりが違うのかなって、
裂いてみたんだけどさ。……一緒っぽいね、今のところ」
さらに切り刻もうとしたその手を強く掴んで引き止める。
「それ以上その子を傷つけるのは許さない」
「もう死んでるのに?」
「死んでいようと我が子が傷つけられるのを見過ごせる親などいない」
「……実の親から、この子を引き離したアンタが言うの?」
紅い瞳。紅い指先。紅い唇が私の方に向けられる。
呼吸を今。私はまともにしているのだろうか。
世界が崩れおちそうだ。悪い夢だと思いたかった。
「アンタに嘆く資格はないよ」
視界が赤く染まった。
鮮やかな赤。
玄冬と同じく真紅に染まった私。
嘆くべきだろうか。
喜ぶべきだろうか。
もう、傷つけられ、殺されていく君を見なくてすむのは……ねぇ、玄冬。
2005/06/12 up
花々(閉鎖) が配布されていた「赤く染まる苦痛10題」、No4より。
- 2013/10/15 (火) 00:18
- 黒玄