作品
紅い瞳は死の円舞曲を
「黒鷹ぁ……」
幼い頃のやりとりが蘇る。
夜中に黒鷹を探し求めて。
笑って抱いてくれたあいつにほっとした、あの時。
「うん? どうしたんだい、玄冬?」
「嫌な夢を見たの、あのね……」
――紅い瞳のお兄ちゃんが黒鷹は来ないって。
一瞬だけ、曇った顔は直ぐにまた笑顔になって。
……あいつは言ったんだ。
***
「……黒鷹はどこだ?」
何時かこんな日が来るのを、俺は知っていた。
「あの人なら来ないよ。……可哀想にね」
紅い瞳が鮮やかな光をたたえて、俺を射抜く。
嫌な目だ、と思った。
何も知らないくせに、知ったような口調が気に入らない。
「今から君はここで死ぬんだよ。一人でひっそりと寂しく」
「……それで、どうして俺が可哀想と?」
目の前の男の顔色が変わる。
「あいつと一緒に過ごしてきた日々を幸福だったと思うことはあっても、哀れまれることなんてない」
「君が死のうとしている今、傍にいないのに?」
「お前に何がわかる」
紅の瞳がきらめいたと思った瞬間。
胸は剣に貫かれていた。
紅に染まる胸と歪んだ紅の瞳を交互に見る。
「呪いなよ。……どうしてこんなことにって」
「出来ない」
――大丈夫だよ。
背を撫でてくれた温かい手を覚えている。
――身体がなくとも、私の心は常に君と共にある。
そう一人じゃない。恐れることは何もない。
俺には何時だって黒鷹が……。
2005/06/05 up
花々(閉鎖) が配布されていた「赤く染まる苦痛10題」、No5より。
これやりたさにお題に手を付けた覚えが。
紅い瞳=救世主でしょうw
- 2013/10/15 (火) 00:18
- 黒玄