作品
肉と野菜のハーモニー
「おい、黒鷹。夕食が出来たぞ」
居間で本を読んでいた黒鷹に声をかけると、すぐに黒鷹が顔を上げて応じる。
「うん? ああ、ありがとう。いい匂いがするね」
「ちょっとした自信作だからな」
「ほう、それは楽しみだ」
二人で食卓について、いざ食べ始めたところで、腸詰肉をナイフで切り分けた黒鷹が怪訝そうな顔をした。
「ん? 玄冬、この所々に入っている緑は何だい?」
「ああ、香草を少し加えてみたんだ。
香りもいいし、味にも変化が出るし、良いかと思っ……ちょっと待て。
お前何をしてる」
黒鷹がその肉の中に混ぜた香草を必死に取り出そうとしている。
ぼろぼろと崩しながら食べるのを見るのは、気分のいいものじゃない。
まして、これはいい感じに出来上がったと自信の一品なのに。
「君ねぇ……わざわざ肉の中にまでこんなの入れなくたっていいじゃないか」
「こんなのとは何だ。
お前、そんな細かいものにまでケチをつける気か!?
野菜のうちにも入らないだろう、それぐらい。
人がせっかく手間隙かけて作ったものを!」
腹が立つ以前に呆れる。
そのまま、野菜を食卓に出すと黒鷹は避けるから、細かく刻んだり、さりげなくソースやスープに入れたりとこっちだって色々と考えているのに。
「いやね、そりゃ私だって肉の香草焼きとか、桜の木のチップで燻した肉とかは好きさ。
あれらは単に香りづけだしね。
だが、これは口にも入るじゃないか。どうにも感触が好きじゃない」
「嘘吐け。
お前切り分けてまだ一口も食べてないだろう、香草の入ってる部分!」
小さい子どもの食べ方よりも性質が悪い。
全く、こいつは時々子ども以下だ。
「……私が緑のものが嫌いだというのを、君は良く知っていると思うが」
「だからこそ、工夫して食べさせようと、俺が色々やっているのもお前は知っているよな?」
「猛禽類だよ、私は。だから」
「必要ない、とお前は言うが。
人型で生活していく以上は、それなりに食えとも俺は言っているよな?
食材だって無限にあるわけじゃないんだ。
……不味い料理を作ってるわけじゃないと思うんだがな」
「う……」
つい、言葉の最後は愚痴っぽくなってしまったからか、少しだけ黒鷹が困ったように視線を彷徨わせる。
そのままじっと見つめていると、溜息をついて如何にも仕方なくといった様子で、普通に腸詰肉を切り分ける。
そのまま、大人しく口にするものかと思いきや、その切り分けた腸詰肉を突き刺したフォークを俺に渡そうとした。
「……何だ」
「君が食べさせてくれるなら、今日はこれ以上何も言わずに頂くよ」
「…………あのな、前から思っていたんだが。
お前、仮にも俺の親の割には、俺に何かを食わせるよりも、俺がお前に何かを食わせることの方が多くないか?」
しかも、時にはそれを口移しで要求してくる。
今日はそこまで言ってこない分、まだ黒鷹なりの妥協なのかも知れないが。
「そんな小さなことは気にしちゃいけないね。
ほら、食べさせてくれないのかい?」
「……偶には普通に食ってくれ」
言いつつも、フォークを受け取って素直に黒鷹に食わせてしまうあたりが、俺もつくづく甘い。
2005/09/18発行
個人誌『Vocalise』より。
多分、黒親子二人が生活していく上で、終結することのない食卓バトル(笑)
- 2013/11/04 (月) 05:32
- 黒玄