作品
In The Forest
「こんなもの、か」
家から少し離れた森の中をうろついて、数刻も経っただろうか。
籠の中の山菜や茸類を確認して呟くと、黒鷹が感心したように言った。
「君はホントにこういうのを探すのが上手いね」
「お前の場合は探す気がないだけだろう。最初から」
黒鷹の籠の中身に入っているのは僅かな量。
期待はしていなかったが、あまりに予想通りな展開にため息をつく。
兎などを捕らえる狩りとなると目の色を変えるくせに、こんなときはただ歩いていて目についたものを採取するだけ。
わざわざ探してまではやらない。
「いいじゃないか。
君がそれだけ採取してるなら、数日分は問題がないだろうし」
「まぁ、それはそうだが……ん?」
一瞬だけど、甲高い声が聞こえた気がした。
「どうしたね?」
「いや……今、何か聞こえなかったか?」
「え?」
また。今度は間違いない。
悲鳴のようなものが確かに聞こえた。
まさか、誰かが襲われている?
もしそうなら放ってはおけない。
「ちょっと見てくる」
「玄冬っ! ちょっと待ちなさ……」
制止の声は振りきって。
籠をその場に置いて、声がした方向に向かって走り出した。
少しずつ近くなる声。
ただ、それには何か違和感を感じた。
自分でもよくわからないが、それ以上近寄らない方が良いかも知れないと。
だが、それを押しこめて、さらにその方向に行こうとして、ふと視界に入った光景に足が止まった。
「ふ……ああっ! やっ……誰かに、聞こえ……っ」
「誰もいやしない。……だからもっと声を」
「あ……っ!」
遠目にもわかる晒された若い女の胸。
その手には男の骨ばった手が這っている。
それだけで、何をしているかなんて、わかりきったことだった。
だけど、まさかこんなとこで。
「だから言ったのに。待ちなさいって」
「……っ。黒鷹」
何時の間に来ていたのか、黒鷹が苦笑いしながら俺の傍に寄ってきた。
「……気付いていたのか」
「ん、まぁね。あれは悲鳴ではなく、嬌声だろうなと」
さらりと言ってのける黒鷹に、俺の方が顔が赤くなるのがわかる。
まさか、俺も黒鷹に触れられてる時にあんな声を?
「戻ろうか。邪魔をするのは野暮というものだからね」
その言葉にただ頷いて、黒鷹の促すままにその場を離れる。
だけど、女の声は頭にこびりついて離れなかった。
***
「……わからない」
「うん?」
彼らから大分離れて、元いた場所に近くなってから、ようやく俺が言えたのはその言葉。
「わからない、とは?」
「あんな誰かに見つかるかも知れない場所ですることが……だ」
「そういうことか。簡単なことだよ。それこそ、彼らが求めてるものだからさ」
「は?」
「『誰かに見つかるかもしれない』ということだよ。刺激を求めてるんだ。
見つかるかも知れない場所で睦み合う。見つかったらどうしようと。
まさにそのことを。一方で見せ付けたいのもあるだろうね。
自分たちは場所さえ選べないほど互いを求めてしまい、それを受け入れられるのだと」
「……よく、わからない」
「言うより、実践した方がわかりやすいだろうね」
「え……っ! ふ……」
問いかけを返そうとした言葉は黒鷹の唇に塞がれる。
舌を絡め取られて、口の中の粘膜を刺激されて。
唇が離れるころには息が上がっていた。
そして、そのまま近くの木に身体を押しつけられる。
「っ! 何のつも……」
「実践した方がわかりやすいと言っただろう?」
「ちょっと待て! まさかここでっ」
「そのまさかだよ」
「く……あっ!」
首筋に軽く歯が当てられて、びりと刺激が走る。
身体が竦むその間にも黒鷹が手袋を外して、俺の上着の前釦を外していく。
中心だけ露になった肌に、ゆっくりと手のひらが這わされて。
この場所で、ということに抵抗を覚えてるはずなのに、抗わない自分に気付いた。
黒鷹の手が直接服の中に入りこんで、下肢の中心に触れられても。
「ん……」
「……抵抗しないのかい?」
「して、欲しいのか?」
「どうだろうね。してもしなくても一緒かな」
「……っく!」
根元の方を緩く扱かれて、たまらずに声が上がる。
一人で追い上げられてるようなのが、恥ずかしくて。
黒鷹のリボンタイを掴んで解いた。
「玄冬?」
「お前も……前、開けろ」
それだけしか言わなかったけど、意図はわかったんだろう。
黒鷹はただ微笑って上着の釦を外し、ついでに俺の手袋も取り除く。
「いいかい? これで」
「……ああ」
抱き合うと互いに少しだけ露出された肌が触れ合う。
いつものように全身で温度を感じるのとはまた違った感じがする。
肌が露出されてる部分は少ないのに、いつもより興奮してる気がするのは場所のせいだろうか?
「……こっちも触ろうか」
「ふ……っ! う!」
背中側に回されてた黒鷹の手が滑り落ちてきて、腰から服の中に手を入れて、後ろから指が内側の熱に入りこんだ。
じわじわと背筋を上がっていく快感に、ただ、黒鷹の腕を掴んで、肩口に頭を押しつけ、声を殺す。
掴む力はろくに加減できてないから、痛いかもしれないと思いつつ、そうでもしないと、声を上げてしまいそうで。
必死に黒鷹にしがみついた。
「下……脱がせるよ?」
「ん……」
熱っぽい吐息に乗せた言葉に、興奮してるのは自分だけでないのがわかって安心する。
指を抜かれて、下衣を纏めて引き下ろされた。
普段ではありえない場所が外気に晒される感触に少し身体が竦んだが、内股を撫でる黒鷹の手にやがて慣れた。
「こっちの足を上げなさい。……支えていてあげるから」
「……ああ」
「いくよ?」
「っ…………あぅっ!!」
足を抱え上げられた瞬間に、黒鷹が一気に奥まで入りこんできた。
体勢のせいなのか、興奮してるせいなのか。
それがひどくきつくて。
中にいる黒鷹の形まで意識してしまって、また余計に興奮する。
「……っ……! 平気、かい?」
「な……んか、凄く、きつ……!」
「だろうね……っ。これじゃ……いつもより、締めつけてる」
「お前が……っ、いつも……より大き……か……あっ!」
足を抱えてるのとは逆の手が前に回って、くびれた部分を擦る。
走った刺激に、地についている方の足ががくりと崩れ落ちそうになって、より繋がりが深くなる。
身体の震えが止まらない。もっと黒鷹を欲している。
服に包まれた部分で篭る熱が妙にリアルで、ひどく欲求を追いつめる。
「……そんなこと言うのは反則……っだろう」
「く……うあ……っ! きつ……っ……!」
隙間のないほど深い繋がり。強い快感がただ身体を支配する。
律動は決して強くはないのに。
「……辛い、かい? ……止めるかね?」
「無茶……っ言うなっ。できない、くせにっ!」
こんな昂ぶった状態で放り出されたら。
考えるだけでも気が狂いそうだ。
黒鷹だってそれは同じはずなのに。
繋がった箇所に響く脈動は俺のだけじゃない。
「そうだ……ね。無理な……相談、だっ」
「ひっ……! ああ! 黒……っ!」
「玄冬……玄冬……っ」
呼ばれる名前。呼ぶ名前。
言葉というよりはただの叫び。
だけど愛しい響きの言霊。
「……くあ……っ!!」
中の弱いところと、前の裏筋を同時に擦られて。
もう後戻りができなかった。
閃光が弾ける。
黒鷹の手に包まれたままで達した。多分黒鷹と同じ瞬間に。
内側を伝う黒鷹の熱を感じて、微かに身体が震えた。
立っているのが正直辛い。
「……随分出したものだ」
「っ……馬鹿、やめ……ろっ……!」
黒鷹の指に絡みついてるのは俺が出したばかりの精液。
それを舐め取ろうとした黒鷹を慌てて止める。
いくらなんでも目の前でそんな光景を見せられるのは、恥ずかしいにもほどがある。
が、自由の利かない身体はふらついて、よろめいたところを黒鷹がかろうじて支えてくれた。
「……っと。すまない。結局服を汚したね。身体は辛いかい?」
「……さすがに」
「体重を預けなさい。……座ろう。私も正直なところ、しんどいからね」
言われるままに黒鷹に寄りかかるようにすると、黒鷹が身体を支えてくれて、静かにその場に座り込んだ。
繋がったままだから、地に着いた瞬間に軽い衝撃が響いたけど、軽く息をついて、なんとかやりすごした。
汚れていない方の手で、髪に触れてくる黒鷹の手が暖かくて、少しずつ、落ちついてくる。
「……たまには悪くないだろう? こういうのも」
しばらくの後に耳元で囁かれた言葉に返す言葉はなかった。
なんとなくわかってしまったから。
睦みあっていた彼らの心境が。
嫌ではない。だけど。
「……やっぱり、いつもの方が落ちつく」
全身で抱きしめられて、応えて。
何も堪える必要のない、いつもの二人きりの秘め事。
「落ちつく、ね。落ちつく行為ではないような気はするけども」
「あ、いや、そういう意味じゃなくて」
「いいよ。わかっているから。言いたいことは」
額に落とされた口付けは優しかった。
そう、本当はいつでも、どこだろうと。
存在を感じていられればそれでいい。
見せ付ける相手なんていなくても、黒鷹がこうして抱きしめてくれれば。
2004/07/02 up
青×が書きたかったんです、この時は。
ホントヤッてるだけですみません。玄冬視点。
着衣えっち好きですが、男同士だと受の下半身超無防備\(^o^)/
↑体勢にもよるけど、向かい合ってるとどうにもならない
- 2008/01/01 (火) 00:06
- 黒玄