作品
櫻恋シ、鳥ハ鳴ク
「ねぇ、本当は嫌いなんでしょ?」
「……っ……何が、だい」
覗き込んだ紅の瞳は、いつもと変わらない。
身体を繋げていることが嘘のように淡々としている。
「桜。あの子は好きだったっていうけど、貴方は嫌いでしょ?」
「……どうして、そう思うんだい」
玄冬にさえ。
あの約束を交わした玄冬だけでなく、幾度も生まれてきたあの子にさえ、それを問われたことはなかった。
どうして、彼はそう思ったのだろう。
「だって、あれは玄冬が死ぬことで咲く花だから」
「…………っ!」
声に詰まったのは、ぐ、と下から強く突かれたせいか、言った言葉が真実を指していたからか。
昔は好きだった。
冷たく凍える中に降る雪よりも、優しい暖かさの中で舞い散る桜が好きだった。
二人目のあの子を連れて、群の人里離れた森の中で、あの子の生まれたことを、祝福するように咲いていた桜が好きだった。
それを疎ましく思い始めたのは何時だっただろう。
――よかった。
春になり、誕生日を迎える頃に咲く花に、冬の間、固い表情をしていたあの子は微笑んだ。
また、春が来てよかったと。
花見は楽しかった。
いつも二人で美しく咲く桜を眺めて、迎えた春を楽しんだ。
だが、それゆえに。
桜が咲かなくなったら。
……冬が終わらなかったら。
玄冬はどれだけ嘆くだろうと。
まるで桜に玄冬を持っていかれるようだったのもあっただろう。
だが、決定打はそれではなかった。
――俺が死んだら、桜の下に埋めてくれ。……できれば、この先もずっと。
あの約束を交わして、別れる直前に玄冬がそう言った。
――墓標なんていらない。その方がいい。桜の一部になれるから。
そうして、気付いてしまった。
あの花は玄冬の生命を礎に咲く花なのだと。
玄冬が逝って、春が来て、あの花が咲く。
あの子の生命と引き換えに。
……無性に憎くてたまらなくなった。
私から玄冬を奪う桜が。
「俺も嫌い?」
「…………」
「玄冬を奪って、こんな色の髪をした俺も嫌い?」
「っ……そうだ……と言った、ら?」
激しくなる一方の突き上げに、声がどうしても途切れる。
前で熱を持って存在を主張している私自身に触れた手。
幹を軽く握りながら、親指で先端を撫でて、小さな粘着質の水音が響く。
繋がっている部分が反応したのか、救世主の顔が歪められた。
「好き、って言ってくれるまで離さない。こうしてずっと抱いてる」
「誰……が……!」
首筋から鎖骨へと這わされる舌。
背を抱いた熱い腕。
目を閉じると、桜色の残像が瞼の裏で散る。
――好きなんだ、桜が。
言ってたまるものか。
私からあの子を奪っていくものを好きだなんて。
それでも、嫌いだとも言えはしなかった。
舞い散る花びらに、目に映る桜色に、確かにあの子を優しい記憶と一緒に思い出せるのだから。
2005/05/17 up
Uさまへの誕生日押し付け品でした。
なぜだか、私の中では黒玄前提救鷹は騎乗位のイメージがつきまといます。
多分、とっとと行為を終わらせたい(から色々動く)鷹と、(半ば嫌がらせで)行為を終わらせたくなくて動かない救世主、というのがあるから。
しみじみ、黒玄ありきですね、私の話は……w
- 2009/01/01 (木) 00:01
- 黒玄前提他カプ