作品
寝物語~under ver.
――それはもう古いお話。
――いつか、どこかであったこと。
「昔々、あるところに一人の青年が居ました」
「……ん……っ」
「彼は世界を滅ぼす者。
生きてそこに在るだけでも滅びに向かいます。
そんな彼を倒せるのは、世界にただ一人きり」
「……ろ、たか……っ!」
身体を繋げたままで、知り尽くした弱い箇所をただ突き上げる。
そして語る。
睦言などではないそれを。
碌に聞こえていないのかも知れないけど。
「そして、そのただ一人の相手は、世界を滅ぼす者を愛しく思い、殺すことはできません。
相手は滅ぼす者の味方でした。
願っていたのは彼に生きていて欲しいということ」
「や……あぁっ!!」
玄冬の眦に苦しさからか、悦楽からかの涙が浮かぶ。
そっと唇で吸い取って、また突き上げる。
「……世界を滅ぼす者には鳥がついていました。
彼を護る役目を背負い、傍にずっといて育て上げ、誰よりも滅ぼす者を愛した鳥が」
「は……っ……」
繋がった箇所が熱い。
時折、脈打つ感覚を伝えるそこにかなり追い詰められてるのだろうと理解する。
ああ、硬く張り詰めたモノも涙を零して、震えているね。
「鳥もやはり滅ぼす者を死なせたくないと願いました。
それが役目だからではなく、ただ滅ぼす者への愛しさ故に」
「んんっ!」
誰よりも愛しい子。
私の望みは……。
「鳥は滅ぼす者が世界を滅ぼさなくても良くなる方法を知っていました。
ただ、その方法は同時に鳥の命の灯火を消すことでもあったのです」
「く……ろ鷹……っ!!」
背中に縋る腕の力が大きくなる。
君が私を呼ぶ。全身で存在を求める。
ただ私だけを。
それは誘惑。甘美で残酷な。
永遠の楽園。永遠の地獄。
繰り返される輪廻の輪。
「鳥は滅ぼす者に方法を言えませんでした。
……その結果、滅ぼす者は選択したのです」
「ああっ……く……!」
――自分が再び生まれたら。その度に殺してくれと。
玄冬の中が私の吐き出した熱を取りこむかのように蠢く。
それに誘われ、私は腹の上に散った白濁を、そこに指で塗りこめるように触れた。
私を求めたその証を。
***
「……きっと滅ぼす者は」
「うん?」
ふと、情欲が収まりかけた頃に玄冬が唐突に口を開いた。
「方法を聞いても選べなかったと思う。
……鳥の命と引き換えにする方法は」
「……そうか」
ああ、優しい私の子。
今回も君は私を殺してはくれないんだね。
「黒鷹」
「うん?」
「……どうして、そんな顔をしてる?」
「顔?」
「寂しそうな、辛そうな……」
頬に伸ばされた玄冬の手を、そっと自分のそれで包んだ。
表に出してしまうなんて、親失格だね。
いや、とうに親などという資格もないか。
「そうだね。少しだけ寂しいかな」
今の君といられる時はあと僅かなのを知っている。
もうすぐ、この穏やかな時間がまた終わりを告げてしまうから。
「俺がいる。ずっとお前の傍にいるから。……だからそんな顔をするな」
ただ優しく抱きしめてくれる。
本当に良い子に育ってくれるね、いつも。
「有り難う」
抱きしめ返しながらも、心の中でだけ詫びる。
すまない。
今度も私は君を死なせる。自分のために。
また、逢えるその日を迎えるために。
――お前にしか頼めないんだ。だから頼む、黒鷹。
それはいつかの寝物語。
優しい子どもと哀しい鳥の物語。
2004/06/20 up
サイトup後に、個人誌『Ad una stella』収録により、
サイトから撤去したものを再び持ってきました。
かつて運営していた『黒玄Webring』で、配布していたお題の
『黒玄好きへの10のお題』よりNo9を使って書いたものの、
裏仕様です。表仕様はJunk収録ですが、全く別の話。
- 2008/01/01 (火) 00:10
- 黒玄
タグ:[黒玄][黒鷹][玄冬][春告げの鳥][黒玄好きへの10のお題]