作品
All day long~新しい年に
年明け早々、暮れに買いこんで来た御屠蘇はもう何杯飲んでいるのか。
すっかり黒鷹の顔が赤く染まっている。
正月だからと甘い顔をしていたが、そろそろ飲みすぎじゃないだろうか。
「おい、黒鷹。ほどほどにしておけ。お前何杯飲んでる?」
「うん? どのくらいだったかなぁ……ま、大丈夫だよ。まだ!」
「……飲みすぎるなよ。お前明日まともに動けなくなるぞ」
「ふふ、まだ余裕はあるよ。
買ってきた量もそれなりだし……おお、そうだ!
うっかり忘れるところだった。あれを出さないと!」
「あ?」
黒鷹が唐突に席を立ったかと思うと、自分の部屋に引っ込み、何やら抱えて戻ってきた。
……織物……? か、これは。
「玄冬、玄冬。そこに立っていたまえ」
「……何だ」
「いいから、いいから」
「おい、何だこれは」
黒鷹の手がそそくさと俺の服を脱がしていき、代わりに今持ってきたものを着せていく。
反論するよりも早く、あっという間に着替えさせられてしまった。
こういうときには無駄に素早い。
紅系で纏められた鮮やかな織物は、着物だったというのはわかったが。
「うん? 着物だよ、見ればわかるじゃないか」
「女物のな。……俺が聞きたいのは、何でそれをお前が俺に着せてるかなんだが」
「そりゃあ、姫初めの浪漫はこう帯をぐるぐるっと……」
「う……わっ」
締めたばかりの帯をいきなり勢いよく解かれて、
身体がよろめいたところで、黒鷹の腕が俺を抱きとめる。
「……こうやって、肌蹴た所を楽しむところにあってね」
帯が解けて、乱れた襟元を黒鷹の手が撫でていく。
「……初めて聞いたぞ、そんなの」
「そうだろうね。たった今私が考え付いたのだから」
「おい」
「もう御屠蘇も楽しんだし、御節も頂いたし。
残る楽しみといえば、姫初めしかないじゃないか!」
「御屠蘇はともかく、御節はほとんど手をつけなかったくせによく言う」
相変わらず、野菜はよけて食っていた。
睨むと少しは口にしたけど、本当に僅かで終わった。
「ははははは! まぁ、それはさておきということで。
せっかく一年に一度しかない姫初めなんだ。
趣向を変えたほうが楽しいじゃないか」
言いながらソファに倒され、首筋に口付けられて舌が這う。
流されそうになった瞬間、今日が元旦だと思い出して慌てて止めた。
「待て! ここでする気か!? せめて寝室にしろ!
うっかりこの1年、居間でするのが普通になったら嫌だぞ、俺は」
正月にやったことはその年ずっと付きまとう、とも聞く。
偶にならともかく、毎回ソファでコトに及ぶかと思うとどうにも落ち着かない。
だから止めたのだが、見下ろす顔は苦笑気味だ。
「……君ね、私が言うのも何だが、他につっこむべきところがあるんじゃないのかね」
「あ?」
「いや……いいよ。素直ないい子に育ってくれてお父さんは嬉しいね」
「ちょ……黒鷹……お前人の話……っ……聞け!」
「聞いてるよ」
「っ!」
着物の裾から太股に入り込んできた手が熱い。
器用に布をかき分けて、直接中心に触れられた指に身体が竦む。
たやすくそこに血が集まり始め、形をかえていくのが分かってしまう。
当然、触れてる黒鷹にも分からないわけはない。
気恥ずかしさについ顔を逸らしたら、耳元で低い声が囁いた。
「聞いているからこそ、だよ。
そんな可愛いことを言うから、我慢がきかないんじゃないか。
……二回目はちゃんと寝室で抱くよ。だから」
まずはここで、と熱を孕んだ呟きに結局降参した。
かり、と耳の縁を甘噛みされて、零れそうになった声を押し殺す。
「声上げてくれればいいのに」
「う……るさ……っ。ん……っ!」
重ねた唇から、濃厚な酒の香りが漂う。
交わす唾液も見事に酒の味しかしない。
肩を肌蹴られて、口付けを落としながら、黒鷹が俺の手を掴んで、中心に導いた。
布越しでも分かる硬い感触。
黒鷹も十分興奮してるのがわかるのは嬉しい。
黒鷹の手が離れた途端に、黒鷹の服の釦を外しにかかり、ズボンの前も外して、中から黒鷹自身を取り出した。
熱い滑らかな肌触り。
軽く握って擦り上げると、俺の肌に当たる黒鷹の吐息が荒くなった。
「ん…………」
「気持ちいい、か?」
「当たり前じゃないか。……あまりされると挿れたくて仕方なくなるよ?」
「あっ……!」
黒鷹の指が再び俺の中心に伸びて、先走りを塗りこめるように先端を撫でる、時折軽く鈴口にめり込ませる指の刺激が強くて、つい顔を黒鷹の肩口に押し付ける形になる。
「下着、取るよ?」
「っ……」
目を閉じて見てはいなくても、下着が足から抜かれていくのも、中心が外気に晒されるのもよくわかる。
後ろに指が触れて、軽く周囲を撫でたあと、そっと一本入り込んできた瞬間に黒鷹の服を掴んだ。
内側を掻き回す指に感じるのはもどかしさ。
俺も黒鷹のモノをぎゅっと握りこむと、微かな笑い声が耳に届いた。
「もういいね? 手を離して。……脚を開きなさい」
「ん……あ…………ああっ……!」
黒鷹に言われるままに動いて、迎え入れる姿勢を取って。
入り込んできた熱が一気に弱いところを掠めて、声を抑え切れなかった。
身体を密着させて、黒鷹が耳元で囁く。
「……いい子だ。そうやって声を聞かせてくれればいい。
…………君の中は温かくて……凄く気持ちがいいね」
「や……めっ……。口にしな……くていい…………っから……っ!」
小さい動きだけど、場所が弱いところを中心に動いてるものだから少しきつい。
……が、そのきつかったはずのものが少しずつ弱くなって。
何か違和感があった。
「……くろ……た……か?」
「ん……」
声がどことなくぼんやりしてる。
そんな風に思った瞬間に動きが止まった。
「……え?」
「…………すー……」
「おい? …………ちょっと……待て、おい、黒鷹!?」
「……かー…………」
だらりと圧し掛かった重み。
どう聞いても寝息にしか聞こえない呼吸音。
そこはかとなく、中の圧迫感も弱くなっている。
「…………っ! だから飲みすぎるなと!」
信じられないというか、呆れるというか、中途半端に上り詰めた興奮をどうしてくれようというか。
おそらく動いてて酔いが一気に回ったんだろうけど。
まさか挿れられたままで寝られるとは思わなかった。
「ったく……何が二回目は、だ。一回目もまともに終わらないうちに」
「すー…………」
こっちまでさっきまでの興奮はどこへやら、で一気に萎え始める。
いや、興奮したままできつい思いをするよりはいいか。
手の届く場所にブランケットを置いてあったのを幸いに、それを手にして、黒鷹の身体の上から何とか覆うように掛けた。
肩口にある黒鷹の頭をそっと撫でても反応はない。
しばらく起きやしないだろうな。
少しばかり重いが、耐えられないほどじゃないし、暖かくて、黒鷹じゃないけど眠気もくる。
……まぁ、多分酔いが醒めて起きたら本格的に落ち込みそうだから、あまり責めないでおいてやるか。
「……おやすみ。黒鷹」
続きは起きた後で、な。
***
「…………悪気はなかったんだよ。
ただ気持ちいいなと思ったら何時の間にか、その」
「わかってる。だから別に怒ってはいないと言ってるだろう。
呆れてはいるが」
「ううう……年の初めからまさかこんなことに……」
軽く一眠りしたあの後。
案の定黒鷹は事態に気付いて、赤くなったり、青くなったり。
そして、終いにはすっかりいじけて膝を抱えて蹲っている。
本気で泣き出しかねない勢いで、こっちはかなり本気で溜息を吐きたくなる。
……やれやれ。俺も大概甘いと思う。
黒鷹の背中に寄りかかるような形になりながら、後ろから腕を回して抱きしめた。
「本当にもういい」
「……でも、君は寂しかっただろう? 一人で置いていかれた形になって」
「興奮ならこっちもすぐ醒めたし、すぐ眠りもしたからそんなには」
「だけど……」
「じゃあ、逆になって考えてみろ。
……もし俺が最中に寝てしまったら、お前はどう思う?
少し寂しいとも思うけど、寝顔を見てほっとしたりもしないか?」
「玄冬」
「自分と一緒だから、無防備でいられると思うと……その、こういう言い方でいいかわからないが、可愛いとか嬉しいとか思わないか。
……俺はお前が俺以外の前では酔えないのも知ってるし……だから……その」
やはり、慣れないことなんて言うもんじゃない。
自分の顔が火照っていくのがわかる。
ふと、黒鷹の手が俺の頭にぽん、と軽く置かれた。
「君のそういう言葉を聴けて、嬉しいと言ってしまうべきか。
それとも、そこまで言わせてしまって、すまないと言うべきか」
苦笑交じりの声が聞こえる。
きっとこいつも今照れて真っ赤になってるはずだ。
顔は見えなくても、耳が赤く染まっている。
「……仕切り直してもいいかい? 今度はベッドで」
「ああ。すまないと思うなら、責任は取れ」
「敵わないね」
くるりと振り返った黒鷹に顎を捉えられて、唇を重ねられる。
まだほんのりとだけ漂う酒の香りはほどよく甘い。
きっと今度は眠りもしなければ、眠らせてもくれないだろう。
多分、空が明るくなるまで黒鷹は俺を離しはしないだろうから。
2006/01/03&2006/01/28 up
2006年姫初めネタ&黒玄メールマガジン(携帯版)第20回配信分。
この機にまとめてしまいました。
鷹が情けなさ過ぎてすみません。
なぜか年明け早々こんな方向にいってしまいました。
ほんのり情けない鷹が書いていて楽しかっ(黙れ)
- 2008/01/01 (火) 00:20
- 黒玄